第403話 覚悟

 それからしばらく、これからの話やさまざまな情報共有などをして、解散した。

 解散したと言っても、俺以外の面々が自分の部屋に戻っただけだが。

 ここは俺の部屋だからな。

 布団敷いて寝るしかない。

 布団に横になって目を瞑ると、感覚が鋭敏になる。

 視覚から入ってくる情報が遮断されると、それ以外の感覚が強くなる。

 それは真気などの力を感じる第六感も同様だ。

 

「この力は、裏鬼門からだな……はっ。大妖か……たいそうなもんだ」


 そう一人ごちる。

 別に怯えているわけではないが、今世において感じた、最も強大な気の持ち主。

 前世の頃の実力だったら、震えて家で布団を被って隠れていたくなっただろう。

 あれは人の敵うものではない。

 たち向かったところで無駄だ。

 そう思って。

 けれども、そう思っても気術士としての使命に従っただろう、とも思う。

 気術士の使命は、人々の安寧を守ること。

 この世界を、人間を狙う妖魔達から、陰ながら命をかけて守り抜くこと。

 結果死ぬことになっても、それはそれで仕方がないと。

  

 今はどうか。

 

「……楽しみ、だな」


 そう、非常に心が躍っていた。

 これは……なんだろうな。

 あぁ、もしかしてこれが……。


「武者震いか……思ったより好戦的になってるのかもしれないな」


 前世ではこんなのはなかったな。

 いつも恐ろしかった。

 どこで、いつ、死ぬかもわからない。

 両親や妹を残して死ぬわけにはいかない。

 だが、それでも戦うのは気術士の使命だからと、必死だった。

 その結果が死であったのは悲しいことだが、俺は頑張った方だと思う。

 今があることは、そのボーナスみたいなもので……。

 だからこそ、この人生を、復讐だけでなく人のためにも使うのは悪くない。

 中途半端だとは思ってはいるんだけどな。

 復讐を目標にしながら、人との関わりを捨てられず、また心のどこかで善人ぶりたいのか人助けにも力を注ぎ……。

 人間とは度し難いものだ。

 だが、これこそが人間だろうとも思う。

 俺は俺の好きなように生きる。

 前世、そうできなかったのだから、そのようにしたところで誰に憚ることもない。

 

 そう、好きに……。


 そんなことを思いながら俺は眠りに落ちていく。


 *****


「……では、皆様。お分かりかとは思いますが……」


 紫乃が静かにつぶいやいた。

 次の日、俺たちは土御門家屋敷の最も広い部屋に集められた。

 その中には、土御門家の実力者達が集められ、全員が戦装束に身を包み、勇ましい表情で正座して整列している。

 最前にいるのは蘭、そしてその両脇に紫乃と椛がいる。

 いずれも少女にしか見えないのがなんだか不思議な感じがするが、土御門家の面々はその三人に見惚れるように、どこか狂信的な面持ちで見つめていた。

 人間、見た目ではないけれど、やっぱりなんだかんだ見目麗しい女性が実力者として最前で戦うと宣言していると、どこか鼓舞されるところがあるのは事実だ。

 精悍な男でもいいが、土御門家は女系が強いっぽいからな。

 並んでいる呪術師の当主たちも、年齢問わず、女性が多い。

 だからこそ余計に現実離れした蘭達の美しさ、そのありように見惚れているのかもしれない。


 蘭が、ゆっくりと口を開く。


「今日が、決戦です。このうちの何人が生きて残れるかは分かりません。ですが、私も、椛も、そして紫乃も、誰よりも前に立ち、全力を尽くして戦うことをここに誓います。それについてきていただけますか?」


 一瞬、静かになり……そして。

 怒号のような同意の叫びが、部屋に満ちたのだった。

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