第402話 なりふり
「本当に……大丈夫なのですか?」
不安そうに尋ねる咲耶だったが、これについて俺は大して心配をしていない。
景子は確かに今はあまり表舞台に出てはこないが、その姿を見るくらいのことは四大家主催のパーティーとか集まりとかで今でも普通にある。
そこで見る限り、彼女の能力は五歳くらいの時に見た時のまま、大きく変わっている感じはないからだ。
慎司の方は微妙というか、あいつは景子よりも遥かに表に出てこなくなってしまっているからな。
あいつの方は未知数と言えば未知数だが、結局昔からの性質……自分が矢面に立って何かをするということが出来ない臆病者であるという部分が変わっていないからそういう行動をしているのだと俺は思っている。
そういう意味では、ただ単に凶暴なだけだったとはいえ、一番前に立ち続け暴れ続けた重蔵というのは小根からあいつらとは違っている
後ろから結界を張ったり飛び道具だけでなんとかしようとしているあいつらとは。
というと重蔵を評価しすぎな感じもするが、身内贔屓みたいになってしまいがちではあるな。
そんなことを考えつつ、俺は咲耶に答える。
「問題ない。まぁさっきは大義がどうとか言ったが、いざとなったらなりふり構わず全てぶっ潰すことは容易だからな」
これは本当の話だ。
仙術を覚えてしまったことが理由だ。
仙術は、扱いが難しく、その規模が気術の何倍、何十倍も大きい。
自然そのものを扱うという、気術とは根本の異なるコンセプトに基づく。
しかしそれが故に制御が非常に難しく、少し失敗すると大変なことになってしまうのがデメリットだ。
だからおいそれとは使えないし、使っていない。
せいぜい、気術を少し強化するときに僅かに使うくらいだ。
あまり仙術で派手なことをすると仙界側から幽閉されることもあると師匠方からも聞いたしな。
というか、師匠方はその経験があるという。
仙界なんていうものが存在している理由もそもそもがそこにあって、かつては仙人道士たちはこの世界に住んでいたが、その力の大きさゆえの問題がたくさん起こったので、新たに仙人が住まう世界を作り、そちらに移り住んで大きな干渉は避けようということになったのという。
流石に存在しているだけで火山が噴火したりしかねない規模にまで巨大化した力を持ってしまったら、そういう発想になるのも当然のことだった。
俺はといえば、流石にそんなに大きな力は持っていない。
仙界に住むそういった隔絶した方々に比べたら、微々たるものだ。
だからまぁ、当分こっちの世界にいられるが、しかしそれでも問題を起こせば違うということだ。
仙術というのも使い所が難しいのだな。
ただ、一発二発だけなら、幽閉される前に使えるということでもある。
なりふり構わないとはそういうことだ。
そしてその場合、景子や慎司のみならず、家ごと潰れることになるだろう。
そこまでやる気はないのだ……。
俺の顔を見て、確かに冗談で言っているわけではないと察した咲耶は、そして最後にはため息をつき、
「……承知しました。そういうことでしたら、私も文句は言いません」
そう言ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます