第399話 反応
俺がはっきりと、北御門尊の生まれ変わりだと言うと、二人はしばらくの間、言葉を発しなかった。
いや、発せなかったのだろう。
当たり前だ。
今まで、幼馴染だと思っていた相手が、実は別人で、しかも前世と合わせれば七十歳オーバーの爺さんだと分かったのだからな。
特に、そんなものと許嫁にされてしまっている状態の咲耶は衝撃が大きいのではないだろうか。
彼女との許嫁という関係も、もしかしたら近いうちに解消かもしれないな……。
などと考えつつ、二人の反応を待っていると、
「……たしは……」
静かに、咲耶が口を開く.
「ん?」
「私は……その、どう受け止めたらいいのか、分からないですけど、それでも……武尊様は武尊様なのですよね? 私たちと一緒に、ずっと過ごしてきた……武尊様であることは、変わりませんよね?」
「それは……まぁそうだな.別に他の誰かと成り変わったとかそういうわけじゃない。俺は生まれた時から、俺だよ。それは同じだ。だが……」
今までお前達がそうだと思っていたものとは、別のものだ、そう言おうと思ったのだが、咲耶はそのまま物凄い勢いで俺の腰に抱きついてきて、叫ぶように言った。
「その先を言わないでください。私は……武尊様が、武尊様でいらっしゃるのなら、それでいいのです。自分は嘘とついてきたとか、本当は別の人間だとか、そういうことは……構いません。武尊様は、武尊様です……」
そしてそのまま、ヒックヒックと泣き出してしまった。
この反応は予想していなかった。
どちらかといえば軽蔑されるかもしれないとすら思っていたところがある。
冷静に。
だが……まぁ、思っていたより、子供で、素直で、そして今まで築いてきた関係は、良いものだったということかな。
いや、まだ龍輝が残っているか。
俺は彼に視線を合わせると、
「お前は? どう思っている?」
と尋ねた。
これに龍輝は肩をすくめて呟いた。
「別に俺はなんとも。いや、驚いたは驚いたぜ。だけど咲耶が言ったことじゃねぇが、お前はお前なんだろう? 幼稚園からずっと過ごして、俺たちを鍛え上げてくれたのが、お前だ。お前がいなきゃ、俺は今ほど強くなれてねぇよ。ただ……」
「ただ?」
「70近いのにお前、幼稚園に通ってたわけか……それを考えるとちょっと笑えるな」
「おい、こら。いや……俺もあれはある意味つらかったがな。お歌を歌いましょうなんて……そんな年でもないってのに」
「俺は今通えと言われても辛いぜ。爺さんには堪えたろう?」
「本当にな……」
「ま、そんだけだ。しかしそうなると……重蔵様も、それをご存知で?」
今度は黙っていた重蔵に水を向ける。
これに重蔵は頷いて、
「うむ。知っておる」
「よく、生き残っておられますね……?」
復讐はどこいったんだ?と首を傾げる龍輝に重蔵は軽く言う。
「運良くな。だが、殺されかけたのは殺されかけたぞ。ギリギリのところでなんとか首の皮一枚繋がったが……」
「殺されかけたんですか……でも……武尊は殺さなかった? ということは、重蔵様は……」
これについては俺から話すべきだろうな。
「重蔵は確かにあの時、俺の足の腱をぶった斬ってくれたがな。何か、妙な妖に精神を蝕まれていたらしい」
「え?」
「つまり、本心からやったことではないということだ。嘘ではないと、その殺しかけた時に確認した。客観的に考えても、死をかけてまでつくような嘘でもないだろうしな」
「そうだったのか……」
これを聞いた龍輝は少しホッとした表情をする。
流石に自らの師でもある人物を、これ以上軽蔑し続けたくはなかったのだろう。
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