第398話 告げる
流石にここまで話していくと、何か勘づくものがあるのだろう。
咲耶と龍輝の顔が怖いものになっていく。
ただ、それでも何も確信はないからか、二人とも無言だ。
俺は続けていく。
「五十年の月日は……長いようで短かった。あの大封印の中には尊と温羅以外には何もなかったが、しかしだからこそお互いのことを深く知れた。言葉を長く交わすことはとある事情で難しかったが、それでも、ぶつけ合う剣の間に、確かに言葉ではないコミュニケーションがあった」
「……とある事情、とは?」
他に聞きたいこともあるだろうに、咲耶はそう尋ねた。
龍輝に最後まで聞かなければと言った手前、自分がそれを破るわけにはいかないと思っている部分もあるだろう。
俺は答える。
「尊は温羅に、自分がなぜ大封印の中に閉じ込められる羽目になったのか、その一連の流れを話したんだ。その時に、温羅は同情してくれ、その上で一つの提案をした」
「提案……?」
「転生の提案だよ。新しい命に生まれ変わって、自分を陥れた奴らに復讐をしたらいいじゃないかと。そういう提案だ」
これを聞いた咲耶と龍輝の驚きは、今までで一番だったらしい。
二人は目を見開き、それから言う。
「転生など……そんな術は、今まで誰も成功させていません。出来るとももはや……」
「挑戦した術士は数知れないが、いずれも碌でもない目に遭って死んでる。だから、輪廻転生の理に気術士が介入するなんて不可能だと言われているだろ。それなのに……」
そんな二人に、俺は続けた。
「温羅は、そもそも気術士じゃないが、しかし大妖だった。しかも、あの大天狗ですらも霞んで見えるほどの大物だ。長い年月を生き、妖魔であるにもかかわらず、気術にまで精通し使いこなしていた。そんな彼が、封印された長い年月全てをかけて編み出したらしい。問題があるとすれば……」
「あるとすれば?」
「その術の発動には、形成し始めてから、五十年の年月がかかるということだ」
「ごじゅう……」
「困った話だと、尊は思った。それでは復讐したい相手など全て死に絶えてしまうかもしれないじゃないかと。だが温羅は言った。気術士は強ければ強いほど長生きなんだから生きてるだろうし、そもそもそれだけ長く生きていれば、大切なものがたくさん増えている。復讐しがいがあるだろうとさ」
咲耶はこれになるほど、と頷いて言う。
「確かに……復讐という目的を考えれば、その方がより相手に絶望を与えられそうですね……」
「ま、そういうことだ。あともう一つは、その時の尊はすでに死んでいた。肉体がなかったんだ。だから魂だけ、剥き出しの状態でそこに存在していた。ぼうっとしていればそのまま消滅しかねないほどに矮小な存在だったんだ。普通なら……封印に閉じ込められていなければ、そのまま冥界にでも行くんだろうけどな。そうもいかなかった。だから温羅は、転生が成るまでの五十年という月日に尊の魂が耐えられるように、絶え間ない刺激を……修行を施すことにした」
「五十年も、修行を……そうですか、だから……」
咲耶がそう呟く。
龍輝も続けて、
「何が違うんだって思ってたが……そもそもの年月からして違ったわけか。納得がいったぜ……」
そう呟く。
さて、もうこの辺まで語れば二人ともほとんど確信に至ったようだ。
これなら、はっきりと言っても問題ない。
そう思った俺は、二人に向き直って、言う。
「もう分かったな? つまりは……俺、高森武尊は、記憶を保ったまま、温羅に転生の術を施され、新しく生まれなおした北御門尊だ……騙していて、すまなかったな」
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