第397話 思い出す

「……ざ、けんなよ……」


 くぐもった声で、そう呟いたのは、龍輝だ。

 ギリギリと拳を握りしめ、そして次の瞬間、弾かれたように立ち上がり、そして重蔵に掴み掛かる。


「ふざけんなよっ!! あんた……あんたなんてことしたんだ!! それでも四大家の当主かよ!! 恥ずかしくないのかっ!!」


 重蔵は龍輝の手を簡単に避けられただろうに、そうはせずにされるがままにしている。

 であれば、俺が止めることではないだろう。 


「わしは……間違えた」


 なんとも言えない目で、龍輝を見つめ、そう呟く。

 龍輝は、


「なんだよ……それは……もう尊様は帰って来ないんだぞ……!! あんたたちを信じて一緒に《妖魔の首魁》を倒そうとした尊様は……」


 と悔しそうに言い、かといってそれ以上何かするわけでもなく、重蔵の胸ぐらから手を離す。

 ごとり、と重蔵が膝を床につき、言う。


「分かっておる。たとえ……どんなことがあろうと・・・・・・・・・・あの時の所業が許されるとは思っておらぬ。だが、ここから話さねば、何も語れないゆえな……」


 この言葉に反応したのは、咲耶だ。

 龍輝の方は大きく首を傾げている。

 意味が分からないのだろう。

 それはそうだ。

 咲耶は尋ねる。


「この話が……武尊様に何か関係が、ある……? よく分かりません。龍輝。もう少し話を聞いてみる必要があるでしょう」


「だけどよ……!」


「この場を去りたくなる気持ちは分かりますが、どんな話でも最後まで聞かねば評価しようがありませんよ。さ、重蔵様続きを」


 しかしここで重蔵は、


「わしが続きを語ってもいいが、ここからは武尊からの方がいいじゃろう。構わんか?」


 そう言った。

 確かに、その方が良さそうだな。

 俺は頷いて答える。


「あぁ、構わない」


「ここからは武尊様なのですね……? うーん、本当によくわからなくなってきました」


「とりあえず聞いてくれよ」


「それはもちろん」


「ええと、重蔵たちが北御門尊を罠に嵌めた辺りから始めるが、いいか?」


 二人に確認すると、


「……? おぉ」


「承知しました」


 と頷いたので俺は続ける。


「北御門尊は封印の礎にされた。その後、重蔵たちは転移符を使って《鬼神島》を去ってしまったが……北御門尊はその時もまだ、生きていた……いや、存在していた、かな」


「存在、ですか……?」


「あぁ。《妖魔の首魁》を《鬼神島》ごと封印したからか、北御門尊は気付けば、黒穴の中……封印の最奥にいたのだ。そしてそこで出会った。《妖魔の首魁》、その本体である温羅に」


「ちょっと待ってください。どうしてそんなことを……?」


 なぜ知っているのか、という話だな。

 だがそれは後だ。


「まぁ、聞いてくれ」


「はい……」


「温羅は、まるで人間のように見えた。妖魔といえば、大天狗もそうだが、強大であればあるほど、デカくて派手な見た目であることが多いが、そいつは違った。一見して、矮小な妖魔のようにも感じられた。しかし実際には違った。研ぎ澄まされて、凝縮されて、付与なものが削ぎ落とされての、その存在であると、北御門尊は長い年月の中で感じるようになっていった」


「長い年月……?」


「そうだ。北御門尊は、そこで温羅と共に、五十年の月日を過ごすことになった。彼に鍛えられながら……」

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