第396話 告白

「嘘とは……一体どういうことなのです!?」


 そう尋ねたのは龍輝だ。

 思わず、と言った様子なのは、今の時代に気術士の子供として生まれて《鬼神島の決戦》の話を聞いて、憧れない子供はいないからだろう。

 俺としてはなんだか面映い話だが、一種の英雄譚として語り継がれているらしいからな。

 何も出来なかった俺についてもだ。

 龍輝はだから、あれが嘘だったとは思いたくないのだろう。

 しかし、重蔵は言う。


「簡単な話だ。あの時あったことは、伝えられていることとは別のことだ。それを、俺たちが……生き残った三人が、自分たちの良いように改ざんした」


 随分と自分を悪辣なように言うものだな。

 やはり、俺に対する贖罪の気持ちは今でも強いのだろう。

 自分を悪者として定義しないと、語るに語れないのかもしれない。

 しかし、あんまり良い語り方とは思えないけどな。

 事実、龍輝の視線が強い。

 東雲家の当主である重蔵に対するものとは思えない、厳しい視線だ。

 対して咲耶は、そんな空気を少しでも和らげようと思ったのか、


「龍輝、落ち着きなさい」


 そう呟く。

 これに龍輝は身を乗り出して言う。


「だってよ!!」


「立っても何も、貴方がその様子だと重蔵様も語るに語れないでしょう。とりあえず、座って」


「……くそっ」


 言われて静まるのは、まだ龍輝が冷静だからだな。

 キレたら手がつけられないのは俺たちの中でももしかしたら龍輝なのかもしれない。

 止めようがないからだ。

 重蔵は続ける。


「……すまないな。では話を続けるぞ」


「……はい」


 不服そうな龍輝だが、今度はいきりたったりはしなかった。

 

「あの時あったことは、まぁ、概ねでは正しいんだがな。ただ、一つ異なるのは、北御門尊についてのことだ」


「尊様の……?」


「あぁ。あいつについては、自ら身を犠牲にし、封印の礎になったと、そう伝わっているだろう?」


「はい」


「実際には、あいつにそんな意思はなかった。あいつは大した気術士ではなかったが、その代わりに体内に膨大な真気を抱えていた。それを利用して慎司が封印術を完成させようと画策した……あいつを逃げられないようにするため、わしはあいつの腱を切った。景子は道すがら、あいつの体力を削るべく、流れ弾に見せかけて巫術をぶつけていた。そして、慎司が最後に、巨大な黒穴から出現しようとしている《妖魔の首魁》を、島諸共、尊を贄として大規模封印術を展開したのだ……あいつは最後、俺たちに対する呪詛を呟いていたよ。当然の話だ。世のため人のためと考えて、危険な場所に自ら志願したのに、結果として今まで同志だと思っていた連中に嵌められたのだからな。そこからの話は……まぁ、お前たちも知っているだろう。北御門尊は祀られ、わしら三人は英雄として語られ……鬼神島は立入不可能の場所になった」


 これを最後まで聞いた咲耶と龍輝は言葉も出ないようで、目を見開きながら、動きを止めていた。

 信じられないのだろう。

 英雄と呼ばれていた男の、汚い所業を。

 自分たちが属する四大家の当主たちが隠してきた、秘密の大きさを。

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