第395話 振り返る

「うーん、どこから話したものかな」


 改めて考えると難しい気がする。

 俺の前世から話すか?

 それとも……。

 そう思っていると、今まで黙っていた重蔵が、


「悩むのであれば、わしが少しばかり昔話でもさせてもらおうか」


 そう言った。

 昔話。

 重蔵の。

 それは……。


「重蔵、いいのか?」


「構わんさ。それにその方が色々と分かりやすくなるだろう。お主から言っただけでは、少し信憑性に疑問が出てくるからな。もちろん、二人がお主の言ったことを信じないとは思わんが」


「まぁ確かにな……じゃあ、頼む」


「あぁ」


 ここに至って、もういいかなと思って俺は重蔵に対しての敬語をやめている。

 咲耶と龍輝はそれを聞いて、どういうことだ、という視線を向けているが、それもこの先すぐに分かることだ。

 重蔵が語り出す。


「今から……もう七十年近く前になるのか。鬼神島で、気術界にとって重要な出来事があった……」


「それは……あの戦いのこと、ですね?」


 咲耶がそう言うと、重蔵は頷いて続ける。


「うむ。今は皆が《鬼神島の決戦》とか《鬼神事変》とかそんな風に呼ぶな。あれの概要を言えるか?」


 今度は龍輝に水を向けると、龍輝は言った。


「ええ……その時のことは確か……妖魔の中でも鬼族が大量に出現して、異変を察知した気術士たちが半年ほどかけてその発生源を特定。鬼神島にて《妖魔の首魁》が復活しつつあることによるものだと分かり、その殲滅のために気術士総出で対抗。結果として、四人の若き才能ある気術士達によって、《妖魔の首魁》は封印され、解決に至るも、四人のうちの一人、北御門尊様だけは、命を落とすことになった……」


 確かに軽くまとめると、そういう感じだな。

 妖魔の大量発生から鬼神島での復活の特定までは結構な時間がかかっているのは、街中に出現する妖魔の退治や、それ以外にも邪術士の暗躍など、様々な勢力の動きがあったからだ。

 今の京都の状態に似ている。

 大妖の復活というのは、そういう意味でも面倒臭いわけだ。

 今回と違うのは、《妖魔の首魁》をどうこうすることは総力を上げても難しい、と考えられていたことだな。

 だから、半ば決死隊に近い状態で俺たちは鬼神島に向かった。

 それでもやるべきだし、いずれは全気術士でどうにかしなければならないわけで、死ぬとしても早いか遅いか、みたいな部分もあったしな。

 少なくとも俺はそう考えていたが……他の三人は違ったわけだ。

 ただ、重蔵は別のものと戦っていたようだが、他の二人はな。

 特に慎司に関しては、俺を生贄に使えば確実にどうにか出来る確信があってのことだったのだと今では分かる。

 まぁ、正直、温羅に出会った今考えると、それが出来ただけ、慎司も相当にすごいと思うが。


 さて、龍輝の説明に、重蔵は言う。


「うむ。皆にはそう伝えられているし、それが事実だとされているな。だが、はっきり言おう。それは嘘だ」


 これに、咲耶と龍輝は目を見開く。

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