第393話 何を話すか

 宴が終わり、客たちも帰り……というか、街に警備のために戻って行った。

 俺はやはり特に仕事はないし、かといって大物の上級妖魔については昼間にあらかた倒してしまったからな。

 まだ全部やったわけではないが、流石に残りは京都の人間の手で片付ける、と言われてしまったのでそちらは任せることにした。

 まぁ、分家当主たちの実力を先ほどの宴会場でなんとなく見てみたが、彼らが回復すればなんとかなるだろうというくらいの力はあったので。大丈夫だろう。

 昼間はそういう者たちの真気がすっからかんになっていたからこそ、どうにもならなくてとりあえず応援なり何なりが来るまで、封印しておくしかなかったのだろうな。

 

「……お、武尊。一人か」


 予定の時間も近くなって、俺の部屋に重蔵がそう言いながら入ってくる。

 

「あぁ。まだ誰も来てないよ」


 俺がそう言うと重蔵は笑って言った。


「わしが最初で良かったな」


「何でだ?」


「流石に緊張するのではないかと思ってな。他の二人だと」


「あぁ……言われてみるとそうかもな。若干気まずいかもしれない」


「だろう? しかし、話す気になったか……」


 しみじみとした口調でそう言った重蔵。

 俺は気になって尋ねる。


「反対しないのか?」


「話すことをか? 何故?」


「お前に対するあの二人の尊敬が吹き飛ぶかもしれないんだぞ」


 そう、重蔵は俺に東雲霊剣術を教えているが、同時にそれは咲耶と龍輝についてもだった。

 そうである以上、弟子から軽蔑の目で見られるのは辛かろうと、そう言う話だ。

 しかしこれに重蔵は笑って、


「本来なら得られるはずもなかった尊敬だからな。それがなくなったとて、今更の話よ」


 と、達観したようなことを言う。


「本当に?」


「本当だとも。むしろ、この歳になって、全てを教え込んでもなお壊れない弟子が三人も持てたことは、いっときのことであっても嬉しかったよ。あとはまぁ……なるようになるしかないのだ」


「そうか……ま、多分大丈夫だと思うけどな。そもそもお前はそんなに悪くないし。景子と慎司はあれだが」


「あの二人の性根はあの頃から少しも変わってないさそうだからな……それにしても武尊、お前復讐のことはどう話すのだ?」


「流石に手伝ってくれとも言えないしな。黙認してくれ、ぐらいがせいぜいか」


「そうなのか?」


「あぁ。何せ、はっきり言ってただの人殺しだぞ。任務で邪術士をやるのとはまた違うしな。しかも四大家の主達だ。仮にことを成しても、その後に問題を引くずる羽目になるだろう」


「それはお前も一緒ではないか?」


「俺一人ならどうにでもなるからな。そもそも証拠を残すつもりはないが……それでも、なりふり構わずに来られたら隠し通すのも難しいだろう」


「わしも可能な限り協力するが、用心深さにかけては右に出る者のいない二人だからな。そう簡単には行かないか」


「さっくり殺されてくれるような奴だったら、五年は前にやっていただろうさ」


「確かに違いないか」


 そんな風に話していると、


「……失礼します、武尊様」


「入るぜ、武尊」


 とついに二人がやってくる。


「あぁ、入ってくれ」


 俺は覚悟を決めてそう言った。

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