第391話 変わりゆくもの
「お、武尊。来たか」
宴会場の端っこの方に行くと、そこには龍輝がそう言いながら手を上げて待っていた。
横には咲耶の姿がある。
二人とも、今回北御門家から来た人間の中ではそれなりに上位の方に位置する割に、今の彼らの周囲に人の姿はない。
普通なら、先ほどの俺のように囲まれていて然るべきだ。
しかし、そうなっていない理由は簡単で、軽い人払いの結界を張ってある。
気術士、呪術師しかいないこの宴会場でかなり弱目のものとはいえ、気づかれないようにそれを張れるのはさすが、北御門の術士というべきか。
北御門家から来た者たちは、これが張ってあるのにもし仮に気づいても、今は近づくべきではないなと判断してくれるだろうしな。
「あぁ、俺を呼んでたんだろ? 重蔵様から聞いたよ」
俺が二人にそう言うと、龍輝が言う。
「おう、聞いたぜ。今日は相当な活躍をしたんだって? 北御門から京都各地に術士を出してたけど、みんな武尊の活躍がすごかったって口を揃えて言うからさ。本人からも聞きたくて呼んだんだ」
「なんだ、そんなことか。別に大した話はないぞ? というか俺の実力はお前たちの方が、今日初めて見た者たちよりよほど知ってるだろうが」
小さい頃から何度となく手合わせして来たのだから、間違いなくそうだと言える。
まぁ、それでも本気を見せたことは未だにないのだが、それに近いものは見せたことはある。
だから今更な話だと思うのだ。
しかし、龍輝は言う。
「まぁ、そう言われるとそうかもしれねぇが。それにしたって今日のお前は普段とは隔絶してたって話だったぜ。よほどピリついてたのか? 感心してた者がほとんどだったが、鋭いのはむしろ怯えてたから、気になってな」
「あぁ、そういうことか……そりゃ悪かったな。その誰かには謝っておいてくれ.別にそんなつもりはなかったんだが、もう少しで大妖との戦いになると思うと、少し気が張ってな」
多分、そういうところもあったんだろうと思う。
そこまで意識してなかったが、そう言われるとな。
少しばかり闘争心がたぎっていたのやも。
そんな俺に、龍輝は、
「そうだったのか。まぁそれならいいんだが……咲耶も心配しててな。ほら、咲耶」
と促す。
そういえば先ほどから無言だな。
「どうした? 咲耶」
俺がそう尋ねると、次の瞬間、
──ぽすん。
と、俺の胸に咲耶が飛び込んでくる。
そして力強く抱きしめてきた。
「おい……?」
別に嫌ではないが、どうしたのだろうか。
首を傾げて龍輝に視線を向けると、龍輝は不自然に、
「あっ、お、俺ちょっと飲み物取ってるぜ。なっ?」
といってその場から去っていく。
「おいっ! ……なんだんだあいつは。まぁいいか……それより咲耶?」
もう一度尋ねると、咲耶は顔を上げて、
「……怖いのです」
「え?」
「恐ろしいのです。武尊様が変わっていかれるのが」
「俺が、変わる?」
「だってそうじゃないですか。今まで武尊様は、そのお力の片鱗すら余人にはお見せにならなかった。それなのに最近は……特に今日なんて、私たちですらも驚くようなものを……」
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