第390話 最後の宴

「……いやはや、北御門にこれほどの術師がおられたとは! 四大家の未来も明るいですな!!」


 その夜、決起集会という名の宴会が土御門家で開かれた。

 参加しているのは主に京都に存在する大家の分家当主たちであり、今回、京都駅などで大物の上級妖魔たちを相手に奮戦し、ほぼ真気がすっからかんになっている者たちだ。

 まだ戦える分家当主たちは京都市街のパトロールなどを行っているし、今ここにいる面々も真気がある程度回復し次第、出撃する。

 ただ、それならこんな集会などしなくてもよかっただろうに、と思ってしまうが、これはどうしても今回、応援に駆けつけてくれた関東の術士たちに労いを、という考えから開催することになったらしい。

 もう三日ほどでおそらく大天狗は復活することから、今日を逃すともう機会もない。

 そして、その戦いにおいてどれほどの死者が出るか想像も出来ないことから、最後の宴会だという悲しい決意もある。

 俺としては可能な限り死者を出さないように努力はするつもりだが、それでもゼロというのは難しいかもしれないな。

 出し惜しみするつもりはもう一切無いのだが、それでもだ。

 それくらいに大妖というのは化け物だということだな。

 まぁ、それを考えると、多少パワハラ気味というか、調子に乗って酔っ払ってるおっさんたちの相手をするのも悪くない。

 パワハラ気味と言っても、あれだ。

 ちょっとバンバンと背中を叩いてくるくらいのやつだしな。

 本当にパワハラしてくるわけではない。

 土御門と北御門は別会社のようなもので、そこに権力のかけようはないからな。

 加えて、彼らは本気で俺に感謝してくれているつもりらしい。

 目の前で大物の上級妖魔を何体も滅ぼしたのがよほど記憶に残ったようだ。

 入れ替わり立ち替わりそこそこの地位だろう分家当主たちがやってきて、深々とお辞儀をし、そして酒を勧めてくる。

 酒は飲めないっつのに。

 まだ十六だぞ、こっちは。


「いやいや、まだまだ若輩者ですので……お酒は遠慮させていただけますか。二十歳になるまでまだ間がありますので」


 そんなことを延々と返し続ける。

 ただいい加減疲れてきたが、彼らも本気で礼を言っているようなので無碍にも出来ない。

 どうにか少しばかり抜け出せないものか、と思ったところで、


「おぉ、武尊よ、飲んでおるか?」


 と重蔵が酒瓶を抱えてやってくる。

 おいこら、お前まで俺に酒を勧めるつもりか?

 という視線で見つめると重蔵は笑って、


「ふっ、そんなに警戒するな……それより、咲耶と龍輝が向こうで呼んでおったでな。流石にここには来ずらいということで、わしが呼びに来たのだ」


「……そうでしたか。ですけど……」


 まだ分家当主たちの相手が続きそうだが、と思って重蔵を見ると、重蔵は、


「おぉ、そちらは橘家の三郎殿に、たかむら家の雪牙殿ではないか。それに……」


 などと一人一人の名前を呼んで、最後に、


「わしと少しばかり飲まないか。なに、同じ時代を生きたもの同士、積もる話もある。今までは関東関西と離れておったから、話を聞きたくてもなかなか機会がなかったからな。どうだ?」


 と言って、連れて行ってしまった。

 分家当主である彼らからしても、同じ時代の生ける伝説に等しい重蔵の方が、いかにそこそこ強かったとはいえ、子供でしかない俺よりは話が聞きたかったのかもしれない。

 ホクホク顔でついていった。

 重蔵はそんな俺に少し視線を向け、これは貸しだぞ、と冗談まじりの視線を一瞬だけ向けて遠ざかる。

 正直ありがたかった。

 やっぱり、前世から通して、ここまで好意的な視線を大勢に向けられることがなかったから、妙な疲労感があるな……。


「いや、そうだった。咲耶と龍輝のところに行かないと……真気的には……あっちか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る