第389話 とある呪術師の見たもの2

 もちろん、話はそれで終わりというわけではない。

 大物の上級妖魔は、京都駅周りに何体か出ていた。

 他の地域にも出現してはいるのだが、そちらに関しては数は少なく、まだ対応出来ているという連絡が来ている。

 だから京都駅周りを片付けさえすれば、ここに集まっている人手を他に振り分けて乗り切ることが出来ると思われた。

 そのために余計に必死にやっていたのだが、それでも一進一退の状況であったのは言うまでもない。

 けれど、武尊様が来て、その状況が一変した。


 上級妖魔の場所を、どうやってか即座に感知すると、そちらに向かって物凄い高速度で走り出し、そしてそれを追いかけている私たちがその場所に到着すると、すでに妖魔は首を落とされている、そんな状況が何度も続いたのだ。

 一体どれほどの短時間で片付けているのか。

 いや、私が最初の討伐も、一撃だった。

 その後もおそらくは全て……。


「……平山。あの方は一体何者なのだ……?」


 倒された妖魔の後処理をする分家当主たちに、そんな風に何度か尋ねられた。

 私はどう答えたものかと考えて言葉に詰まったが、その全てに紫乃様が、


「あの方は、北御門の分家、高森家の武尊様です。東雲家の重蔵様からも実力を認められ、その力に比肩するとまでいわしめる、恐るべき気術士ですわ」


 と答えて言った。

 とんでもな実力者だとは、天狗討伐の時に理解した。

 実力者どころか、こんなものが存在したのかと今でも信じれないほどの化け物であると。

 しかし、それも東雲家の重蔵様が同格として認めるほどとは……それはつまり、大家当主クラスの実力ということに他ならない。

 私のような、一般的な術師がどれほど努力してもたどり着けない境地。

 そこに至っていると……。

 実際に見なければとてもではないが信じられなかっただろうが、確かに彼はその力を示して見せてくれている。


 そしてこの調子ならおそらく……。


「……あら、ついに追いつきましたね」


 紫乃様がそう言った。

 そこにはやはり、五メートルはあろうかという、複数の頭を持つ大蛇おろちの妖魔が、全ての頭部を切り落とされた状態で地に臥しているところだった。

 あれは最初に見た天狗よりも高位の妖魔かもしれない。

 あのタイプは小さいものでも、首を普通に切り落としただけでは倒せない再生力を持つ。

 事実、首は何かで焼かれたかのようになっていたが……何かの術だろうか。

 炭化していることから、恐ろしい火力で持ってなされたのは分かるが、あれだけの剣術を持っていて、かつ気術もそこまでの腕なのか……。

 真気をさほど感じないのは、なぜなのだろう。

 今までの知見全てを使ってみても、全く理解できない存在、それが武尊様だった。


「お、紫乃と……」


「平山です……」


「天狗のところで頑張っておられた術師殿だな」


「殿だなんて、そんな……」


 武尊様にそんな風に口を聞かれて思わず恐縮する。


「なんだよ、最初みたいな感じでいいのに」


 それなのに、彼はあくまでも気さくだった。

 実力と裏腹なその態度に、確かに重蔵様にも通じる鷹揚さがある。

 隔絶した実力者とは、みな、このようなものなのだろうか。

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