第386話 目的地

「……確かに妖魔の気配が多いな。しっかりと街に出てる術師たちが倒してはいるようだが、次々にどこかから現れてる」


 車に揺られながら、俺がそんなことを呟くと助手席に座る紫乃が、


「ここからお分かりになるのですか?」


 と尋ねてくる。

 

「あぁ、探知術を使えば半径数キロくらいの妖魔の状況は分かる」


「半径数キロ……そんな広さの探知術なんて……!」


 紫乃は驚いているようだが、その気になれば京都全域に探知範囲を広げることも今の俺には出来る。

 ただその場合は仙術を併用することになるが。

 流石に真気だけでは出力が不足するからな。

 京都においては地脈からの真気吸収もそれほど多くない。

 やはり生誕地を離れると地脈との縁が薄くなるからだろう。

 それでも無理やり奪い取ろうと思えば出来なくはないが、それってもはや妖魔の所業になっってくるからな。

 流石にそれはしない。

 どうしても必要になったならば、やむを得ないが。


「そういえばまだ聞いていなかったが、大物はどこにいるんだ?」


 今の所近くにはいないようで探知範囲には入っていない。

 だからこその質問だった。

 これには今、車の運転をしている男の術師……二階堂英治というらしい……が、答える。


「いくつかの場所に散っています。今は京都駅に向かっているところです。そこに最も強大な妖魔が出現しておりますので……」


「京都駅? そんな人が密集しているところに出現したらヤバいんじゃないか」


 基本的に気術士の戦いというのは一般人の目に触れないようにやる。

 そのための方法は様々だが、素早く倒して、目撃した者たちの記憶から妖魔と気術士についての記憶を消すというのが多い。

 記憶消去はかなり問題のある術なので使わないに越したことはないが、限定的な仕様であれば副作用もまず生じないように使う事は出来る。

 また他には、妖魔を捕獲して別のところで倒すというのもある。

 この場合、結界術に長けた者が必要になるため、いないと使えないやり方だが、こういうところでの需要が絶えないために北御門家が繁栄しているのもある。

 北御門は空間系気術、つまりは結界系にも長けた家であるため、学びに来る他家の者も多い。

 もちろん、北御門家の固有術は教えはしないのだが、そうではないものは普通に教えているからな。

 高校で教えているのもそういうものだ。

 そして、そのくらいの術であってもかなり強力な結界術であるため、使えるわけだ。


「その通りで……今は強力な人払いをかけて人が寄りつかないようにしています。ですけど、これもずっとかけておくわけには……」


 つまり、京都駅周りは無人になっているということか。

 まぁ、そうしないと恐ろしい数の死者が出るだろうし、他にやりようはないか。

 だが、長く人払いをかけているといずれ不自然に思う者たちが増えてくる。

 そもそも人流が滞っている状態を長くそのままにしておくべきではない。

 だから……。


「これはさっさと片付けた方が良さそうだな。急いでくれ」


「はい!」

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