第385話 案内

「そんなことが起こるのですか? しかしそのような情報は……」


 と紫乃と男の術師が困惑する。

 まぁそもそも大妖が封印から解放される、なんて百年に一度もないようなことだ。

 その割に五十年前に一度、そして今回と頻繁に解放されてるわけだが、これは例外的事象だろうな。

 温羅が言うには、まだ何体かいるっぽいし。

 俺は説明する。


「……重蔵様がおっしゃっていたんだ。鬼神島でも同じようなことがあった、とな」


 俺が見てきたとは流石に言えないし、温羅に確認したからさらに間違いないとも言えない。

 それにしても先に言うべきだったと言われるかもしれないが、あの時とはちょっと状況が違っているからな。

 こういうことは起こりにくいと考えていた。

 温羅の場合、大量に外部に妖気が漏れ出していた上、温羅が従えている妖魔が来たというより、温羅から力を奪おうと考える妖魔が群がっていたらしいから。

 大天狗の場合、あの洞窟の中に封じられいるし、外にも妖気が漏れにくいように工夫がされていた。

 にも関わらず増えているというのは、何かまた、あの時とは異なる事情があるのかもしれない。


「重蔵様がですか……あの方は大妖に対峙したことがある、現在存命中の数少ない気術士のお一人。そのお言葉ともなれば、真実なのでしょうね……」


「間違い無いだろう。本当なら重蔵様に出ていただくのがいいんだが、あの方も部下たちの指示で忙しいからな……」


「どうしたら……いえ。とにかくある程度手が空いているのが私しかいないのです。まずは行ってみたいと思います。どうにか出来るとは言い切れませんが……宝物庫の武具をいくつか持ち出せば持ち堪えることくらいは出来るでしょう。今回に限っては、例え家宝でも使っても構わないと言われておりますし」


 紫乃もだいぶ覚悟が決まっているらしい。

 土御門家は献身的な術師が多くていいな。

 そんな様子を見せられて、俺が見過ごせるわけもなく、


「いや、俺が出るよ。だから心配はいらない」


 そう言った。


「え!? ですが、武尊様は大天狗の方に……」


「まだ数日は平気だろう。それまでにあらかた片付けてしまえばいい。大物以外ならどうにか出来るんだろう?」


 これは男の術師の方に言った。

 彼は頷いて、


「え、ええ。上級妖魔でも分家当主クラスが何人かでかかれば倒せますので……問題はそれ以上のがいるということで……」


「そいつらは俺が引き受ける」


「で、ですが大丈夫なのでしょうか!? 本当に化け物揃いで……」


 男の術師はそう言うが、紫乃が、


「いえ、武尊様が出ていただけるのなら、おそらく心配はないわ」


 と言う。

 男の術師はそれでも心配のようで、


「ですが……!」


 と言い募ろうとしたので、紫乃が、


「私もついていくから、安心して。貴方には案内を頼みたいわ」


「紫乃様も出ていただけるのですか!」


「それなら心配はない?」


「はい……! では、ご案内を。今、車を出して参ります!」


 そう言って男の術師は去っていく。

 玄関まで行けば車が出ているはずだ。

 紫乃は、


「すみません、ああいう言い方でなければ信じさせることが難しくて」


「いや、実際に戦って見せればいいだけだしな。案内だけして貰えば問題ない」

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