第384話 思いだす
男の声に紫乃は首を少し傾げて、
「街中に妖魔ですか? しかしそのくらいのことなら日常業務の範囲内ですし、いつも通りの手筈で術師を派遣し、討伐すれば……」
と言った。
けれど男の術師は首をブンブンと横に振って、必死な様子で言うのだ。
「違うんです! いつもとは全く違っていて……妖魔の数も、強さも……! 常駐の術師だけでは対応しきれず……!」
「バカな。かなりの数の術師が配置されているはずですが。特に今は、京都中の家が大天狗のために、立場関係なく協力しています。それなのに……ですか?」
大天狗が封印から解放された場合、その場から離れて人が密集する地域にまで行くことは普通に考えられる。
妖魔は人から真気を摂取することが出来るからな。
本来なら気術士や呪術師からが最も効率が良いのだが、ここに何百年となく封じられてきた存在だ。
腹の減り具合も普通とは違うだろうし、まずは簡単に得られる食い物を、となる可能性が高い。
だからこそ、街中にもかなりの数の術士を配置していると聞いている。
もしもの時のための対応要員として。
そしてそれだけの数の術士がいるのであれば、日常的に街中に出現する妖魔などモノの数ではないはず、なのだが違うようだった。
男の術師は言う。
「なんとか……数だけでしたら対応できなくもないのですが、中に何体か、段違いの強さの妖魔がいて……大家当主クラスでなければ対応できないのではないかと……!!」
「それほどの……なぜ。しかし今、お母様も大お祖母様も大天狗の方にかかりきりで……では私が行くしか……」
不安そうに瞳が揺れる紫乃。
そこで俺は、にゅっと顔を出す。
これに二人は驚いて、
「あ……」
「何者だ!? それ以上近づくと……」
とそれぞれ口にする。
前者が紫乃で、後者が男の術師のものだ。
そういえば、俺の顔とか知らない術師の方が多いよな、京都では。
特に、土御門家に常駐している者でなければ余計に。
それに俺よりも早く気づいたら紫乃が、男に慌てて言う。
「あぁ、違うのです。あの方は、北御門家からいらっしゃった、大切なお客様です。警戒は不要です」
「そ、そうだったのですか? それは……申し訳なく存じます。ですが、気配が全く感じられなかったものですから……」
「あの方は高位の術士ですから、その点については仕方がないかと……武尊様、ご無礼をお許しください」
紫乃の態度が、先日から一層丁寧になってなんだか居心地が悪いような気がするが、それこそ仕方がないか。
重蔵が同格と認めてしまったからな。
それこそ大家の当主に対する態度に近くなる。
だから俺は言った。
「いや、気にしてないよ。俺も変な近づき方をして悪かった。妙な話が聞こえてしまったからな」
「あぁ、お聞きでしたか。なぜか急に妖魔が増えているようで……」
これに俺は思い出しながら言う。
「そういえば、大妖が封印から解放されつつあると、周囲から大量の妖魔がやってくるらしいからな。これもその一環だろうさ」
温羅がそう、語っていた。
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