第381話 武尊の実力

「尊い犠牲か……少なくともわしは一度もそんなことを思ったことがないがな」


 重蔵がギリッ、と唇をかみつつ、怖い笑顔でそう言う。

 そんな彼に紫乃は少し震えるように、けれどしっかりと尋ねた。


「では、一体どういうことだったのでしょう……?」


 しかしこれには重蔵は、


「今はな、言えん。だがいずれ、必ず説明する日が来る……だからそれまでは、気にしないでおいてくれ」


 そう言った。

 これは俺に気を遣ったものだろう。

 というか、俺のことがあるから公表し難い話なのだ。

 西園寺と南雲にまだ、正体を知られるわけにはいかないからな。

 実力だけならともかく。

 紫乃はそれでも知りたそうな表情をしていたが、重蔵が話す気のなさそうなことを感じ取ると、ため息をついて、


「……仕方ありません。その日を楽しみに待つとしましょう……では、本題に戻りましょうか。どうして武尊様は……それほどにお強くいらっしゃるのですか? 何か、特別な理由でも……?」


 これにはどう答えたものか悩ましいが、流石に重蔵に答えさせるわけにもいかないだろう。

 重蔵も俺の方を見て、どうする?と視線で言っている。

 俺が、お前が答えてくれ、という顔をすれば重蔵がある程度説明してくれそうだが、やはり俺が言うべき話だ。

 まぁ、事実を全て話すというわけにもいかないが。


「特別な理由と言われると困ってしまいますが、純粋に鍛え上げたが故の力ですよ」


 そんな話になってしまう。

 嘘っぽいが、嘘ではない。

 あの大封印の中で地獄の訓練を五十年繰り返したし、転生してからは大封印の中では修行しようがなかった気術を身につけるのに努力し続けた。

 前世におけるハンデがゼロになったというか、前世においてその状態で修行し続けたこともあり、一足飛びで実力が伸びていったけれども、結局全てはコツコツと積み上げたことに基づく。

 前世の苦しみも、死も、大封印での修行も、全てが無ければ今の俺はない。

 ただ、こんな説明だと信じられないようで、


「純粋に……その年齢で、一体どうやってそんな実力に……」


 と紫乃は疑わしげな目で見てくる。

 しかし実力そのものというより、その他を疑っているのだろう。

 邪法に身を染めたとか、年齢そのものが嘘とか、そういう可能性をだ。

 けれどその点については、重蔵が保証してくれる。


「ふっ。まぁ細かいことはいいではないか。年齢については間違いなく十六、七なのは保証する。ちなみに、こやつは、対外的にはわしの弟子だと言っておったが……正確には弟子でもあり、師でもある。わしの剣術と武尊のそれは理が異なるからな。そのお陰でわしの腕もだいぶ上がったわ」


 これは事実だな。

 俺は東雲流霊剣術を重蔵に学んでいるが、重蔵に鬼神流を教えている。

 お互いに教え合うことで、シナジーもある。

 新たな技を生み出せたりとかな。

 この重蔵の言葉に紫乃は古老たちは驚いたようで、目を丸くしていた。

 

「重蔵様に……剣を教える……この年齢で……」


 そんなことを言いながら。

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