第380話 あの頃の色々
「諸国漫遊って……一体何をやってたんですか?」
俺が思わず突っ込むと、重蔵は言う。
「基本的には各地の妖魔退治だったのだが、日本各地を回ると意外に見るべきものが多かったのでな。結果的に色々と楽しんでしまったのだ」
……俺のことで苦しんでたみたいなことを言っていた割には楽しそうな日々を送っていたもんだな、と思ってそういう視線をさりげなく送ると、重蔵は慌てた様子で、
「いや! 人間何があろうとずっと同じ感情では居られぬだろう。それに……関東を離れて、四大家の勢力圏から出ると……何やら全て忘れられるような気がしたのだ。というか、忘れるためにひたすらに旅をしておったからな。ただそれでも……妖魔と戦うときは、常にあの時のことを考えていた……」
結局記憶は鬼神島のあの時に戻る、か。
まぁなんかそういう記憶に苛まれる時ってあれだからな。
温泉とか入って、ふっと気を抜いたときとかだ。
俺も今は結構楽しく過ごしているし、ずっと景子と慎司死ねと考えているわけではない。
心の奥底にはずっとそれはあるけれども、咲耶や龍輝と共に色々なことをして楽しいと思っているときの方が、時間的には長いだろう。
重蔵と茶を嗜んでいる時なども同様だ。
その頃の重蔵もきっと、似たようなものだったのだろう。
「まぁ……そういうものかもしれませんね」
俺がふっと視線から気を抜いたのを理解したのか、重蔵はホッとした顔をした。
ただ俺と重蔵の間で通じ合っている内容について、紫乃や古老たちは当然、よく分かっていないようで首を傾げていた。
ただ、あの時、というのが気になったようで、
「あの、あの時とは?」
と紫乃が重蔵に訪ねる。
ここで誤魔化すことも容易かっただろうが、別に今となっては隠すことでもないと考えたようで、重蔵は素直に言う。
「あぁ、《鬼神島での決戦》のことだ」
「《鬼神島での決戦》……もちろん、京都にも聞こえているお話ですが……あの出来事は、重蔵様にとって誉れだったのでは? 強大な妖魔の首魁をたった四人で封じきったというのは……あの大天狗を京都の総力を上げてすら出来ていないことを考えれば、大金星どころえは済みません」
「ま、そういうことになっておるがな。ただあの時、わしは確かに一人を犠牲にした。あの犠牲は、なくていいものだったと今も思う」
「北御門尊様ですか……しかし、必要不可欠な、尊い犠牲だったと……?」
世間的にはそう伝わっているらしいからな。
それに事実として、俺の真気がなければ温羅の大封印の強化は不可能だっただろう。
それを考えれば嘘ではないと言えなくもない。
ただ温羅は封印から解かれても、あの調子なら人を襲ったりはしなかっただろう。
それに、回りに集まっていた手下と思われていた存在も、実際にはそうではなく、むしろ温羅の妖気を奪うべく群がった妖魔たちだったし、解放してたらむしろ全て吹き飛ばしてくれたような気もする。
まぁ、今となってはあれだが。
あぁ、あいつ冥界で元気にしてるのだろうか。
いや、冥界で元気も何もないか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます