第379話 説明
紫乃が何度か何か言おうとして、口を閉じ、目を瞑る、という行動を繰り返す。
しかし、しばらくして覚悟が決まったのか、彼女は言った。
「……先ほどの模擬戦は……その、一体どういうことなのでしょうか?」
まぁ、そう言いたくなるのは分かる。
というかそういうふうに思ってもらうためにやったに等しいのだから、当然出てくる疑問だ。
しかしこれに重蔵は、
「はて、どういうとは? 普通の模擬戦だが」
と惚けた。
といっても本気ではない。
ちょっとした冗談のつもりだ。
けれど真剣に聞いている紫乃からすれば、なんと反応したものか分からないらしい。
「普通……あれが普通………? いえっ! そんなわけはないです! あれは……そんな生やさしいものでは……」
「どのあたりに、そう思った? 教えてくれんか」
と今度は真面目に尋ねた重蔵だった。
普通に気になるらしい。
どういう意味でかは分からないが。
これに紫乃が、というか紫乃と古老たちが口々に言う。
「まずそもそも、私には……動きがほとんど掴めませんでした。一体お二人が何をしているのか、正確なことは。土御門の古老たちには見えていて、それを聞きながら、朧げながらに理解したにすぎず……風彦、説明できるならお願い」
「では僭越ながら我々が……いくつか疑問点というか、注目すべき点はありますが、まず一つ目は、剣術です」
「ふむ?」
重蔵が首を傾げ、続きを促す。
風彦は続けた。
「重蔵様は、四大家でも霊剣術にて名を馳せる家、東雲家の当主でいらっしゃる。つまりは、剣術においては他の追随を全く許さぬ最高峰と言ってもいい。にもかかわらず、失礼ながら武尊様の剣術は……それに拮抗しておられた。これは信じ難いことです」
「なるほど。しかし、わしが手を抜いていたとは思わんのか?」
どこが手を抜いていただ、白々しい、と俺は思ってしまうが、別に本気でそう言いたいわけでもないだろう。
これに風彦は少し考えてから、言う。
「その可能性も、少しは考えました。ですけど、私自身、剣にはそれなりに覚えがあります。どのような家を見回しても、重蔵様より優れた剣士は未だ、見たことがありませんでした。そう、今日までは……」
「ほう……まぁ、それは良いか。で、他には?」
「武尊様の腕前です。剣術の腕もさることながら……気術の冴えは、恐ろしいほど。ご存知の通り、気術の出力に関しては才能が占める部分が大きいですが、武尊様のそれは……出力ではなく、極限までに鍛え上げられた精密な行使に目を瞠りました。木刀を振るう合間、どうやっても構築する時間も余裕もなさそうなのに軽々と術を組み上げる構成力、また展開する場所を適切に見極めるセンス、戦闘経験……いずれも、その年齢の術士が持ち得ないもの……」
「その年齢の、か。武尊、お前いまいくつだったか?」
「十六ですかね。今度十七になりますよ」
「その頃のわしは何をやっておったか……いや、直後だから、諸国漫遊か……」
何かを思い出すように目を瞑る重蔵。
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