第378話 老化
「そうそう、体の調子はどうだ?」
模擬戦をした一番の理由であるところを俺は重蔵に尋ねる。
重蔵は少し首を傾げたが、やっと思い出したのか、あぁ、という顔をして、
「そういえば老化するんだったか……今、いくつくらいに見える? 体の感覚からしてさほど衰えた感じはないというか、むしろ今が一番調子がいい気すらするんだが」
そう言ってきた。
重蔵を見る。
戦い始めた当初よりも身長が伸び、体も筋肉が太くなり、鍛え上げられた肉体の輝くを見せている。
顔立ちは精悍であり、太陽のような明るさが宿っていた。
年齢がどれほどかと言われると……。
「十代には見えないな。だが、三十代と言うこともないだろう。二十代中盤前後じゃないか? こういう感じだったのか……」
俺はそう言った。
結局、俺は重蔵が十五歳くらいの時に死んでしまっているから、この姿を見ることがなかったわけで、面白く感じる。
随分といい男になるもんだなと思った。
これは女が放っておかないだろうな。
男も放っておかない気がする。
そんな魅力がある。
重蔵はそんな俺の言葉に、
「二十代半ばか……確かにその頃が肉体的には最盛期だった気がするな。遥か記憶の彼方ではあるが、こうしてなってみると、これほどに力に満ちていたか……」
「最初からそのくらいに調整すれば良かったな。まぁ、あれくらい戦うとそのくらいになる、くらいの感覚を確認できたと思えば悪くはないが。それにしても、お前思い悩んできたみたいなこと言ってたが、かなり明るい感じで成長してたんだな」
恨み言ではないが、そんなことを思ってしまう。
今の重蔵の容姿に、暗さは感じられないからだ。
けれど重蔵は首を傾げて、
「何を言うか。このくらいの時のわしは、誰も近付いてはくれんかったぞ。周囲を睨みつけ、趣味は妖魔殺しだったからな。鬼のようだとよく言われたよ」
そう言ってくる。
「えぇ? そんな感じ全くしないが……一回若返って、そこからその年齢までになったから雰囲気が本来と違うのかもしれないな。今の重蔵が若返ったとするとそんな感じ、と言われると納得できる容姿なんだが」
「鏡は……なるほど。確かにわしの記憶とは違う見た目だな……いや、顔貌は大して変わっていないが、当時のわしよりもだいぶ穏やかに見える。やはり、負の感情というか、嫌な経験は容姿すらを歪ませるということかもしれん」
訓練場の鏡を見つけて自分の容姿を確認した重蔵はそう言った。
やはりそういう感じか、と俺は思う。
俺があんな風に死ぬことがなければ、こういう重蔵が歴史上にはいた、そういうことなのだろう。
俺はどんな風に成長していたのだろうな。
俺の場合、肉体がもうないから確認しようがない。
今の俺の容姿と、北御門尊の容姿は全然違うからな……。
咲耶に似ていた気がするが、あそこまで華やかではなかったというか。
男女の違いかね。
そんな話を重蔵としていると、しばらく放心していた紫乃たちが立ち上がり、結界を解除してからこちらにやってくる。
「あの……」
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