第377話 やりすぎる

「……鬼神流……《露華薄紗ろかはくさ》!」


 剣を構え直し、身体強化を強めて俺は木刀を振るった。


「ぬぅ……これは……!!」


 《露華薄紗》は、東雲流で言うところの遠当てに近い。

 しかし異なっているのは、それがたった一撃ではないと言うことだ。

 複数のうすぎぬのような刃が、いくつも重蔵を襲う。

 一般的な妖魔なら、この一撃で細切れになって終わりなのだが……。


「この程度じゃ、決着とはならないか」


 全てを弾き切った重蔵が、俺の目の前に迫る。


「東雲霊剣術《銀波ぎんぱ》」


 その瞬間、重蔵の木刀がカッ、と輝き、視界を潰してきた。

 そして光の向こうから、恐るべき速度の一撃が俺の急所……俺の目を狙って突き出されてくる。

 見えはしないが、それでも重蔵の真気の気配は分かる。

 極限まで研ぎ澄まされ、そのために揺らぐ月の光のように気配の弱いそれであるが、俺にとっては自明だ。

 真気の隠蔽は何よりも俺が得意とする技法。

 直前に来る前に、俺はそれを弾き飛ばし、さらに肩から体当たりをする。その上で少し吹き飛ばされた重蔵の体を狙って、気術を撃ち込む。


「北御門気術《砕玉さいぎょく》」


 これは北御門でも基本的な気術で、分家のものでも普通に使うものだ。

 真気を球形に固め、ただ放つというわかりやすい技で、それが故に使いやすい。

 ただし、基本的であるが故に、その威力は術者の腕によって大きく異なる。

 持てる真気の器、一度に放出できる量、それに加えて戦闘中に保てる集中の度合いなど、さまざまな要素が影響する。

 俺の場合は……。


「ぬぐぐぐぐ……ぐはっ……!!」


 吹き飛ばされてなお、足を素早くついて、正面から俺の《砕玉》を受けた重蔵だったが、《砕玉》が散る直前に圧力に負けて再度吹き飛ぶ。

 流石に踏ん張りが効かなかったようだ。

 ただ、それでもこんなものでは重蔵が大きなダメージを受けることはない。

 今の一撃で彼の纏っていた道着の上半身部分は吹っ飛んだが、ただそれだけだ。

 強靭に鍛え上げられた体が顕わになり、そこから闘気と思しき蒸気が吹き上がる。

 そして重蔵は、ぐぐっ、と両手で持った木刀に力を注ぎ、そのまま思い切り横凪にしてきた。

 

「あっ、おい……!!」


 避けようか……と一瞬思ったが、あれはまずそうだ。

 今の俺の背後には、紫乃たちがいた。

 訓練場に築かれた結界の外にいるが、あの重蔵の一撃は出力が強い。

 仕方なく俺は結界を張り、重蔵の一撃から守る盾を作り上げた。

 重蔵の飛ぶ斬撃が結界に命中すると、 


 ──バチバチバチッ!!


 と雷が走ったような衝撃が走り、数秒の間拮抗する。

 しかし……。


 ──パリン。


 と最後には結界が割れた。

 幸い、重蔵の斬撃もそれと同時に消滅しており、被害はなかったが……。


「重蔵……やりすぎだ」


 俺が手を止めてため息をつきながらそう言うと、重蔵は笑いながら、


「すまん、ちょっと熱くなりすぎたわ……まぁ、ちょっとした模擬戦としてはこんなところでいいじゃろ。しかし、武尊よ、お前また化け物じみて強くなったな。手を抜かれているのが分かったぞ」


「いや、手は抜いてないって。ただ、この訓練場壊すわけにはいかないだろう。重蔵だってそれは同じだろうし」


「まぁの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る