第376話 勘
重蔵を相手に、手を抜ける部分はなかった。
訓練場を破壊しないために出力を絞っているので、それが故の闘いにくさもある。
ただこの部分は重蔵も同じか。
俺と重蔵がそれこそ、出力を全力まで上げたら、初撃でここも吹き飛んでいるだろうからな。
つまりはお互いに飽和攻撃じみたものは中々使いにくい、というわけだ。
使えば、まだ俺の方に部があるだろうが……いや、以前に戦って以来、重蔵の腕の上げ方も凄まじいものがある。
余裕ぶっていられるところは一つもない。
だからこそ、北御門直系にのみ伝わる技術も惜しげもなく使っているのだが……一体どうやってだか簡単に察知される。
北御門が最も得意とする気術の系統は空間系で、結界や空間そのものを縮めて距離をゼロにする転移などなのだが、こういった接近戦でも短距離転移は使い勝手が良く、一人でいる時は頻繁に使ってきた。
妖魔相手であればまず、察知されることはなく、一発で背後が取れて、そこで決着をつけられるいわば一撃必殺の技法に近いのだが、重蔵の背後に飛んでも駄目だ。
最初の一発については目を見開いて驚いてくれたし、軽い切り傷くらいはつけられたが、それだけだった。
そのあとは俺が飛ぶ前にすでに木刀を振りかぶっている。
狙いは正確に俺が飛んだ場所……。
「……お前、なんでわかるんだよ!?」
つい、そう尋ねると、重蔵はニヤリと笑って言う。
「勘じゃ」
そして木刀を振り下ろしてくる。
命中すればそれこそ岩でも鋼鉄でも切り裂かれる威力のそれだが、俺は結界を構築し逸らす。
真正面から受ければそれすらも破壊されることが分かっているからな。
体が若返って重蔵の戦い方は少し変わっている。
老人の時は技術中心に、隙を狙って後の先を狙いがちだったが、今は正反対だ。
多少の小細工は力づくで潰してやるという気合いが込められている。
確かに昔の重蔵の戦い方はこんな感じだったか。
懐かしいと同時に恐ろしいな。
そんな戦い方をしていれば、普通はすぐに体力が尽きて終わってしまうところなのだが、今の重蔵にそんな様子は見られない。
無尽蔵の体力だ。
老人になっても強靭な肉体は健在で、真気は衰えるどころか強大になっている、と思っていたが、真気はともかく肉体の方はやはり多少の衰えはあったのだろうと今では思わざるを得ない。
「勘って……」
なんとか重蔵の木刀を掻い潜りながら、その隙を狙って俺も斬撃を差し込むも、いずれも見抜かれて避けられる。
やはり純粋な剣術の練りについては重蔵に部があるか。
いや……。
「昔から、お前の動きや視線の向く方向には慣れておるからな。大体予測が出来る……あまり癖が変わっていない気がするな?」
言われて、なるほど、と思う。
フェイントなどは挟まずに俺も今は真っ向勝負気味で動いているところがあった。
盛り上がり過ぎたかな。
これでは長年の戦闘経験を積んだ重蔵の相手にはならないか。
「……少しギアを上げるぞ。ウォーミングアップはお互いにこの辺で終わりだ」
「ふっ、望むところだ」
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