第375話 紫乃と古老たち2
「えっ……!?」
つい、そう溢れたのは誰の口からだっただろうか。
私も、そして古老たちも皆、その光景を唖然として見ていた。
事前の予想では、重蔵様が武尊様に適度に指導して終わる。
そんな結末になるだろうと考えられていた。
それなのにこれは……全く違う。
両者、
いや、本当に互角なのかどうかすらわからない、高い次元の戦いだ。
たまに足を止める瞬間や、僅かな緩急の合間にしか、はっきりと見ることが出来ない。
けれどそれでも、恐ろしいほどの轟音が、木刀のぶつかる度に響いているのは聞こえていた。
「風彦……これは一体……」
つい、私がそう尋ねると、彼は言う。
「は、ははっ……こんな戦いを見られるとは、思ってもみませんでしたな……。重蔵様は紛うことなき天才じゃが……武尊様はあの年齢でそれに匹敵するほどの力を……」
「風彦には見えるの?」
風彦は、土御門でも名の知れた剣客である。
呪術師の中では珍しい、接近戦主体の術士だ。
それでいて呪術に弱いわけでもなく、万能の使い手として知られる。
それは彼が大お祖母様と一緒に、北御門からやってきたという経歴に基づく。
彼は北御門の気術も、土御門の呪術も知っているのだ。
もちろん、両方を身につけようとすれば普通はキャパシティーをオーバーして、結局両方中途半端になる可能性の方がずっと高いが、風彦はそうはならなかった。
そんな彼であるからこそ、この戦いがしっかりと見えているのではないかと思ったのだ。
風彦は言う。
「見るだけなら、ギリギリ、ですな……それでもこまかいところは中々。それに、お二人はまだ、余力を十分に残しているように見えます……おぉ、木刀を交わす合間に、気術を挟んでおられる……針の穴を通すような所業じゃ……それも、意外に低級気術か? 信じられぬ……」
武術主体で戦う場合、間に他の術を挟むことは少ない。
せいぜい、防御系を使うくらいだ。
これは意味がないから、というよりタイミングを測ったり、そのための集中を割くのが難しいからだ。
手を止めて使うことは可能だが、全く手を止めることなくそれを可能にしているらしい二人の腕前が恐ろしい。
さらに、
「空間系じゃ……! 北御門の十八番! 短距離転移か……バカな、まだ十代だというのにあそこまで……」「あれほどまでに使えるのは北御門だと、他に美智様くらいしか浮かばんな……転移系は直系以外ほとんど適性がないと聞くぞ。たとえ短距離だとはいえ、あそこまでポンポンと扱えるものなのか」「それをいうなら重蔵様は転移先を先んじて当てて斬撃を放っておられるぞ。どうやって察知しているのじゃ? まさか勘か? いや、そんなわけは……」
古老たちは目が釘付けになってそんなことをつぶやく。
彼らもまた、名の知れた使い手たち。
そんな彼らの独り言じみたセリフは、状況を理解するのに非常に役立つが、それでもなお、理解しきれないことばかりだ。
「……なんて戦いなの……」
そうつぶやくくらいしか、私にはできない……。
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