第373話 真気の衝突
何かを話し終えた後、間合いをとって向かい合った重蔵様と武尊様。
重蔵様は木刀を正眼に構える。
武尊様は重蔵様の弟子ということだから、同じ構えになるかと思っていたが、意外にも刀を後ろ手に引いた、脇構えであった。
真正面から悠然と構える重蔵様に対して、武尊様のそれは……少しばかりトリッキーだろうか?
重蔵様の油断や隙を狙ってのことかもしれないが……それで倒せるような相手ではないはずだが。
「……む、動くぞ」
風彦がそう呟いた。
事実、重蔵様と武尊様はぴたりと止めていた体を、おもむろに動かし始める。
ただし……。
「随分とゆっくり、ですね……なぜ」
そう呟きたくなるくらいには、戦いは静かに始まった。
開始の合図も誰もしなかったから、だろうか。
いや、そんなわけもないだろう。
けれど……。
悩む私に、古老の一人が言う。
「まずは適切な距離を探っておるのではないか? いきなり本気でぶつかり合えば、重蔵様が簡単に推し勝ってしまえるだろうしの。これは本気でのぶつかり合いというよりも、稽古の色が強いのやもしれん」
「なるほど……」
つまり、武尊様に戦いの技術を教えるためのそれだと。
だとすれば、確かにいきなり襲いかかって、それで終わりにしても仕方がない話だろう。
まずは距離を測り、相手の出方を伺うところからだと……。
そういう戦いなのだとすれば、私たちにとっても、ただの見せ物というわけではなく、まさしく見学として高い価値を持つものかもしれない。
呪術師は主に遠距離での戦いを好むが、それでも武術の重要性もしっかり理解している。
遠いところから倒そうとしたら、ものすごく近くに妖魔が現れて死にましたでは話にならないからだ。
最低限、身を守れるだけの力は必要だ。
そして、そんな呪術師にとって、剣術は最も手を出しやすい武術の一つだった。
武具を真気で強化すれば、それだけでも強力な武器となる。
弱い妖魔であれば、それで十分に倒せる。
ただし、それなり以上の相手となるとやはりかなりの修練がなければ難しい。
だから、武術の訓練も欠かさない。
ただ、それでも重蔵様と武尊様、この二人の今の動きの意味は、理解しかねた。
一定の距離にまで離れると、そこでぴたりと止まり、睨み合う。
ただ、構えているだけではないかと言いたくなるくらいだ。
けれど……あぁ、何か息が苦しい気がして、なんだろうかと思えば、これは緊張であると気づく。
張り詰めた空気が、重蔵様と武尊様の間に広がっている。
それは真気のぶつかり合いとなって、現れている。
重く力強い重蔵様の真気に対して、武尊様のそれは心許ないように見える。
薄く、透明で……弱々しく。
そのように……だけど。
「……なぜ、あれで重蔵様の真気を受け切れているの……?」
武尊様の真気は、全く重蔵様のそれに押し負けていないのだ。
あれほどに希薄であれば、確実に押し負けるというのに。
真気そのもののぶつかり合いで勝敗が決まるわけでもないが、気のぶつかり合いに負けるということは気合いで負けるということだ。
そうなれば、自ずと勝敗も決まってくる……そこから考えると、今の二人のそれは……。
「……!?」
そして、次の瞬間、二人が強く木刀を握ると、二人の姿が消えた。
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