第370話 重蔵、確かめる

「……武尊、本当に良かったのか?」


 後ろからゾロゾロとついてくる古老や、前方を案内のために歩く紫乃に聞こえないようにひそひそ声で重蔵が俺に言った。

 声が小さい上、術によって音声を乱しているからどう頑張っても彼らには聞き取れない。

 

「別に構わないさ」


 俺がそう返答すると、重蔵は、


「しかし、実力を隠してきたのではないか? わしとまともにやりあえると明らかになったら、お前の立場は難しくなるというか……」


 と心配げに言う。

 確かに今まで、俺は自分の実力を外には隠してきた。

 しかしそれは、まだ子供に過ぎず、たとえ強かったとしても自分自身の居場所を好きに選択出来ない立場であることが分かっていたから。

 けれど今はもう、俺は十六だ。

 一般社会においてはまだ幼いと言われる年齢だが、気術士の世界ではいっぱしと扱われ始める年齢である。

 場合のよっては大人よりも強力な術士も普通にいる。

 だから扱いが軽くなることはない。

 それに加えてだ。


「……どうせ、大天狗相手に戦う時に、本気を出さざるを得ないんだ。そうしないとお前も、咲耶も、龍輝も死にかねないからな。今までと違って、今回は何かを隠す余裕は全くない」


 そういう実際的な事情に基づく。


「……わしらの為か。すまんな……足手纏いか?」


 少し申し訳なさそうにそう言う重蔵だったが、俺は首を横に張って言う。


「いや、そんなことはない。そもそも、いつかは分かることだ。それが今になっただけだし……問題があるとすれば西園寺と南雲にどう伝わるかだな」


 あいつらの動きはいまだに予想がつかない。

 かつてもそうだったが、コソコソ悪巧みをすることには天才的な才能を持っている二人だからだ。

 加えて今は権力も持つのだから手がつけられない。

 重蔵も似たような思いなのか、唸りながら、


「あやつらか……最近は表向き随分と大人しくしているからな。何とも言えんが……確保に動くか、排除に動くか、そんなところだろう」


 そうため息をついた。


「そこでタダでどうこうされてやるつもりもないしな。結局、ここからは本気を出していくしかない。だから力を見せるのはいいのさ」


 土御門の術師は信用できるようだし、試しにお披露目するにも悪くはないだろう。

 北御門と東雲の協力を真実ありがたがっているようだし、あまり言いふらさないように頼めば多少はマシだ。


「そこまで腹を括っているのならわしも何も言うまい。あぁ、ただ咲耶と龍輝にはどう説明する? 今までは才能がある若き術士で通ったかもしれんが、流石に難しくはないか?」


 確かにそれはなくはなかった。

 だが……。


「……いや。問題ないだろう。咲耶は普段から俺に対する過大評価が過ぎるし、龍輝は諦めが見えるからな。二人とも押し切れるさ」


「なるほど……では後は……両親か?」


「そっちもな。仙人周りで色々あったから大丈夫だろう」


「そうか。意外にお前も根回しというか、周囲を固めて来たのだな」


「無意識だったが、いつ間にかな」

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