第369話 見学

「場所の準備が出来ましたので、ついてきていただければと思います……」


 しばらく経って、紫乃が戻って来てそう言った。

 しかしその表情は少しばかり微妙だ。

 と言うのも……。


「その背後にいる人たちは?」


 俺がそう尋ねると、紫乃も困惑したような顔で、


「……それが、重蔵様が戦われるのなら、是非見学したいと、古老たちが……」


 そう言った。

 改めて見ると、俺が椛に頼まれて《治癒》をかけた古老たちだな。

 結構忙しくしていたはずだが……いや、大天狗を倒す方向に話が進んだ時点で、少し体が空いたのか。

 それまでは結界維持のために力を注ぐ精鋭として働いていたからな。

 今は、大天狗討伐のために力の回復と武具や術具の準備などにかかっている段階で、時間をとりやすいのだろう。

 紫乃の言葉になんとも言えない表情になったのは、重蔵だ。


「見学というが、個人的な訓練にすぎないのだが……」


 そう言ったが、そんな彼に視線を向け、紫乃は首を傾げる。


「……ええと、失礼ですが、貴方は……?」


 そう言われて、重蔵は首を傾げ、それから少し考えてからハッとして、苦笑する。


「……あぁ、そうだったな。紫乃殿。ほれ、わしが重蔵だ。紫乃殿の母上と曽祖母殿と、同じことだ」


「え、ええっ!?」


 驚いたのは紫乃だけでなく、他の古老の面々もだった。

 改めて、紫乃が尋ねる。


「なぜ若返っておられて……古老の方々はそうはならなかったのに……」


 確かに、古老の方には若返りはかけていないからな。

 仙気を使えば可能だったが、そこまでやると原理の詳しい説明とかが必要になってくる。

 他家の者に、そこまでやるのもあれだ。

 今更といえば今更ではあるが、重蔵とは別だ。

 重蔵は今世において、なんでも話せる相手になってるからな。

 他は美智しかいない。

 咲耶や龍輝にはまだ話していないことがたくさんある。

 いずれは話すつもりだが、それは二人を完全に復讐に巻き込むことになるから、慎重に時期については考えなければならない。

 重蔵は俺の方をチラリと見てから、言う。


「まぁ、これについては四大家の秘義というしかないな。ただ、施された術としては蘭殿や椛殿になされたものの方が効果は上だ。それで納得してくれ」


 俺のために気を遣ってくれたのだろう。

 まぁ俺としても重蔵にしたほど細かく説明する気はゼロなのでありがたい。

 流石に仙人周りについては言えないからな。

 すでに理解している椛については、仙気については話さざるを得なかったが。

 紫乃も、他の家の秘儀と言われれば突っ込めないというのはわかっているようで、


「左様ですか……承知しました。あの、それで我が家の古老の方々に見学させてもらえるかは……いかがでしょうか……」


 そう言ってくる。

 彼女としてもこんな面倒なお願いはしたくないのだと分かるが、紫乃はいずれ土御門を継ぐことになるとはいえ、今は古老たちの方が立場的に上なのだろう。

 これに重蔵は俺の方を見て、


「ううむ、それについてもな……」


 と断ろうとしたが、俺は重蔵に首を振ってから言った。


「いや、俺は構いませんよ、重蔵様」

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