第368話 試し
「おっと、そういえば」
俺がふと思いついたようにそう口にすると、重蔵が首を傾げる。
「どうした?」
「いや、お前の体についてだ。さっきも言ったが、徐々に年齢が元に戻るという話をしただろう」
「あぁ、それがどうかしたか? 特に文句はないが……」
「そうではなくて、実際に試したほうがいいんじゃないかと思ってな。ぶっつけ本番で、急に年齢が変化していくのも怖い話じゃないか?」
「なるほど、言われてみるとそうだな。多少のリーチの差くらい、すぐに合わせる自信はあるが」
重蔵がこの点についてさほど気にしていなかったのは、そのくらいの修正は瞬時に利かせられるという自信があるかららしい。
確かに、妖魔の中にはそういう感覚について狂わせるような奴もいるから、修行段階でそういったものに惑わされないように鍛え上げてきているだろうからな。
ただ、妖術でそうされるのと、現実にそうなるのとでは感覚も違うだろう。
だから一度は試しておいた方がいい。
さらに言うなら、重蔵が十全に力を振るって無事でいられる相手というのは限られている。
四大家の当主クラスを除けば、まぁ俺しかいない。
土御門の当主である蘭や椛はその戦いぶりを見たことがないからなんとも言えないが、そもそもあの二人は今、死ぬほど忙しいからな。
重蔵の訓練に付き合えとは言えない。
その点、俺は今のところ手持ち無沙汰だ。
俺自身の訓練にもちょうどいいし。
だから言った。
「自信があるのは分かるが、久しぶりにまともに戦ってみたいだろ? 考えてみればお前とまともに戦ったのは、あの時だけだからな。流石にまた殺し合いをしようとは言わないが……」
「ふっ、わしはそれでもいいが……今度は流石にわしが死ぬだろう。手加減してくれ。わしはしないがな」
「お前相手に手加減できるとは思わないよ……よし、そうと決まったら、場所を借りようか。蘭や椛……は忙しいだろうし、紫乃にでも頼むか」
「うむ」
******
「重蔵様と、手合わせをされると……え、本気でですか?」
紫乃を探してどこか丈夫な訓練場を貸してくれと頼むと、そう言って驚かれた。
まぁこれは当然か。
重蔵は四大家の当主だ。
これはつまり、化け物ということに他ならない。
彼一人で百や二百の妖魔は簡単に滅ぼせるのだから。
そんな相手と、戦おうと言っているのだから正気を疑いたくなるのも理解できる。
だが俺は言う。
「本気だよ。と言っても心配しないでくれ。俺は元々、重蔵様の元で修行してるから、その延長なんだ」
「そうなのですか? 北御門なのに……」
「最近、北御門と東雲は仲良いからな。だから今回もこうして当主自らきてくれたわけだ」
「なるほど……承知しました。訓練場ですね。強度は……」
「出来るだけ高い方がいいな。俺はともかく、重蔵様がな」
そう言うと、紫乃はなるほどと頷き、ここで待つように伝えてからどこかに向かって去っていく。
そんな彼女の背中を見ながら、重蔵が俺を睨みつつ言った。
「わしではなくお前だろう、危険なのは……」
「いやぁ、お互い様なんじゃないかな」
「……ま、確かにわしも人のことは言えないか。土御門の訓練場を破壊せぬよう、気を遣おうか」
「そうだな。別に出力全開じゃないといけないってわけでもない。絞る呪具でもつけてやればいいんだろうが、流石に用意してないしな」
「なるほど、訓練のために作っておくのもいいかもしれんな。わしも最近、お前を見習って術具作りが趣味になってきた」
「意外だな、道具よりも剣術だとか昔言ってたお前が」
「歳をとると、道具にも拘りたくなってきてなぁ……」
「そういうこともあるか。そう言えば茶器の類は凝ってるもんな」
「そういうものだ」
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