第366話 限定的効果

「……うーん、本当に懐かしい、そして憎たらしい顔をしているな……」


 十五歳ほどの姿の重蔵を前に、つい俺はそんなことを呟いてしまう。

 黒黒とした髪に、粗野な顔立ち、その年にしては鍛えられた体格に、身から溢れる自信を感じた。

 ただ、その瞳だけは当時とは大きく異なっている。

 誰の言うことも聞かず、自らだけを王だとでも信じきっていたような当時のそれとは違い、思慮深く大らかな輝きがそこにはあった。

 俺に対する自責の念からだったのかもしれないが、様々な葛藤を乗り越えて五十年の月日を乗り越えたことは、彼に人間的に大きな成長をもたらしたのだろうと思わざるを得ない。

 未だに捨てきれない恨みが俺の心に残っていたら、それでも許せはしなかっただろうが、今となっては事情があったことだとわかっている。

 それに全てが明らかになってから今日までの俺に対する態度で、もはやなんの蟠りもなかった。

 それでも、一生イジるはイジるけどな。喧嘩にならないレベルで。


「お前がこの顔を嫌いなのは仕方がないが……なんだ、殴るためにでもここまで戻したのか?」


 重蔵も本気でそう思っているわけではないだろうが、そう言って苦笑する。

 俺はそれに対して首を横に振って、


「いや、そんなつもりはなかったぞ。ちょっと戻しすぎたのは否めないな。まぁ大した問題じゃないが」


「大した問題だろう……薙人より若いんだぞ。気軽に会いに行けなくなるだろう」


「薙人は、こっちの学園に通ってるんだったもんな。ついでに会いに行きたかったか」


「時間があればだが……。出来れば今回のことにも参加させたかったが、呪術師学園は市民の避難等に充てるそうだからな。あいつもそのために使ってやって欲しいと蘭殿には言ってある」


「そうか。まぁ会いにいける時間くらいは確保可能だから行けばいいんじゃないか?」


「いや、だからこの見た目では……」


「分かってる。そこでさっき言った話になるんだ」


「……なんだったか」


「俺は蘭や椛に若返りを施したが、お前には同じことはできない。できたとしても限定的なものになる、って話だよ」


「あぁ、そういえばそう言ってたな……ふむ、見る限り、何も問題なさそうだが……?」


「今はな。だが、ここから真気を使えば使うほど、お前は老いていく。完全に空っぽになるまで、何度か使えば元の姿に戻るだろう」


 俺の言葉を聞いて、重蔵はなるほど、と頷いた。


「永遠の若返りではない、ということだな。別にそれ自体についてはわしはかまわん。あくまでも、大天狗と戦うために若い体が欲しかっただけなのだからな。しかしなぜ……」


 理由は気になるらしくそう尋ねる重蔵に俺は言う。


「蘭と椛のあれは、仙気の問題だ。そして、仙気が完全に体に馴染んでいる必要があるらしい。椛については数十年とその身に仙気を宿し続けたが故に完全に彼女の真気と馴染んでいた。蘭もそんな彼女から生まれたわけだからな。生まれた時から、仙気と馴染んでいたわけだ。だがお前の場合は、俺の仙気を流し込んだだけだ。だから、徐々にお前の体から俺の仙気が抜けていく。そして空になった時点で、元通り、と言うわけだ」

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