第364話 仙人について
「……俺は仙気を扱えると言ったんだ」
念の為、もう一度繰り返した俺に、重蔵は真剣な目で尋ねる。
「聞き間違えでなければ……仙気というのは、あれだな? 仙人のみが扱えるとされる、自然の気であり、我々気術士が使っている真気がある程度使いやすく加工された気だとすれば、より原始的かつ強力な気だと言われる……?」
やはり、四大家の当主だけあって詳しいな。
その辺の気術士に聞いてもこの定義は出てこないだろう。
仙人が使える力なんでしょ?
程度の理解が普通だ。
俺はそんな重蔵に頷いて答える。
「あぁ。それだな。色々あって使えるようになったんだ。だから普通に重蔵を若返らせることは出来る。さっきも言ったが、限定はあるが」
「お前は……放っておくとどんどん色々なものに手を出すな。まぁ今更文句は言わんが……しかし、仙気を使える、ということはお前……仙人になったか? 仙界へ足を踏み入れたのか?」
重蔵は意外なことに興味深そうに仙人周りの事情について尋ねる。
不思議に思って、
「なんだよ、知りたいのか?」
そう聞くと、重蔵は頷いて言う。
「うむ。仙人に、というより、古くより仙界には剣を極めた剣仙がいると言われているからな。いつかその高みに、と思って鍛えてきた。だからな……」
「なるほど、そういう興味か。いるのかな……剣仙」
「仙界に行ったのではないのか?」
「行ったよ。だけど俺が会った仙人に剣仙はいなかった……いや、多分いない。聞いてないからな、師匠にも……」
あの人が実は剣仙ということはありえないでもないが。
「うーむ、そうか……気になるが、いずれ会うことがあったら教えてくれ。わしとどれくらい力が離れているのか、知りたい」
「あぁ、そういうことならいずれお前も連れていきたいところだ。許されるかどうかはわからないが、聞くことくらいはできる」
「本当か? それは願ってもない。死した後に訪ねる他ないと思っていたくらいだからな……で、お前は結局、仙人に?」
この質問は微妙なところだ。
なんと言っても、俺は仙人としては未熟者だからな。
その通りだ、というのも気が引ける。
だから、
「仙気を扱えるようになったのは事実だ。仙人から教えを受けているのも。ただ仙人を名乗れるほど、完成しているわけでもない。せいぜい見習い仙人といったところだろうな」
そう言うしかない。
師匠方との力の隔絶は、向こうに行くたびに感じる。
あんなものがこっちの世界で暴れ回っていなくて良かったと心から思うくらいだ。
大天狗を見ても大して怯えずに済んでいるのは、あの人たちと常に接しているからというのも大きいかもしれない。
そんなことを考えている俺に、重蔵は少し感動したような表情で、
「おぉ……お前が、見習いとはいえ仙人に……。それは凄いな。あの頃にはそんなことなど全く考えられなかったが、やはり尊。お前はすごいやつだったのだな……」
と言う。
馬鹿にしているわけではなく、なまじ掛け値なしの本気で言っているのが分かるので、恥ずかしくなってくる。
「よせって。さっきも言ったが本当にまだまだ見習いなんだ。だが、その俺でも、多少の仙気は扱える。だからこれからお前に若返りの術を試してみたいと思うが……覚悟はいいか?」
「うむ、もちろんだ。別に実験台でも構わん。お前になら殺されても納得はいくからな」
「あれは冗談だから本気にするな。死にはしないよ」
「ならなおのこと拒否する理由はないな、頼む」
「わかった」
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