第363話 重蔵、若返るためには

「さて、それでは話をしようか」


 そう言って畳に敷かれた座布団に座る重蔵。

 ちなみに場所は土御門家の一室だ。

 重蔵たち東雲家の面々の中でも、比較的年嵩の人間や当主クラスは土御門本家に部屋を与えられている。

 そうではない者たちも、土御門家の関連施設などに割り振られているから、泊まる場所に困るようなことはない。

 北御門家か来た者たちも同様だな。

 あと、今は咲耶と龍輝は北御門家から応援にやってきた人たちに対する指示に奔走している。

 あれであの二人は偉いからな。

 俺と違って。

 俺は公的にはただの分家の継子である。

 たまたま重蔵やら椛やら蘭やらと大家の当主たちに一目置かれているが、それだけだ。

 そういう建前で結構自由に動いている。

 まぁ、実際にも、俺が指示を出すよりも咲耶や龍輝経由の方が通りやすいというのがある。

 いずれ北御門を引っ張っていくのはあの二人だしな。

 俺は後ろから支えるくらいにしておきたい。

 今回のような場合はまた別だが。

 そんなことを考えつつ、俺は重蔵に言う。


「話っていうか、若返りについてだろ?」


「うむ、そうだ。そう言うということはやはり、可能なのだな? だったらぜひ頼む!」


 重蔵からのこういう頼みは、意外に珍しい。

 加えて、重蔵は別に若さに執着するとか、そういうタイプでもない。

 それは西園寺景子の十八番であるからな。

 だから意外な台詞に思えたので、俺は尋ねた。


「なんだよ、そんなに若返りたいのか? まさか若い女を囲い出したりとかしてないよな……?」


「お前、わしをなんだと思っているのだ……ないない。今更、女など」


「そうか……なら良かったが、またいきなりどうして」


「いや、単純な話だぞ? 今回の相手、椛殿の手前、楽勝みたいな雰囲気を出したが、なんだあれは。化け物ではないか」


「あぁ……そういうことか。全盛期の力くらいには戻しておきたいと? でも今のお前、昔より強いけどな」


「技術や真気の面ではな。ただ単純な肉体性能は当然に落ちている。そこだけ戻せないかと思ったのだ」


「そういうことなら相談に乗るぞ。ただこれは実験台になる。その辺のネズミとか虫で試したけど、人間でやるのは初めてだからな。死んでも文句言うなよ。あ、一度俺を殺したんだしそれでお互い様か」


「おい、それを言うな……いや、というか初めて? 椛殿や蘭殿は?」


「あの二人は完全に特殊事例だ。何度か実験したが、全く同じことを再現することは出来なかった。かなり限定的なことしかまだ出来ない」


 これは事実だ。

 やはり、かなり昔に椛が行ったという、仙具からの仙気吸収が大きく影響しているのだろうと思う。


「どう言う意味だ?」


「うーん、なんと説明したものか……俺があの二人に施せた若返り、あれは仙気が重要な要素だったんだ。ただ、普通の人間はそんなもの持ってないし、気術士でも滅多にいない。だがあの二人は、特殊事情で持ってた。だからあの結果になったんだが……」


「ではわしには仙気はないから無理と? では若返りなど不可能ではないか。なぜ出来そうな雰囲気を……」


「いや、結論を急くな。出来るんだよ。俺、仙気扱えるからな」


「なんだと?」

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