第362話 間近

「……封印はあとどれくらいで解ける? あの様子を見ればもうまもないと言うことは分かるが、正確には」


 重蔵がそう尋ねた。

 彼が到着したのは昨日で、早速相手を見たいということでここに連れてきたのだ。

 しかし、今すぐ戦うわけではない。

 まぁ、今すぐ封印が解けてもおかしくはない感じはするが、あれでもまだ余裕はある。

 出てきているのは、あくまでも上半身だけだからだ。

 下半身は未だ、暗闇の奥にある。

 大天狗の目はぎょろついていて、周囲を見回しているから奴の方も状況は分かっているだろう。

 それでも何も言わないのは、彼に巻き付いている封印の雷が、その口の挙動すらもさせないように固めているからだ。

 重蔵の言葉に、椛は、


「そうですね……今日ということはないが、一週間後ということもないだろう、とそんなところでしょうね。以前のあの大天狗の様子は武尊様も見ているが……」


「ええ、私が初めて見た時は、片腕しか見えませんでした、それが一週間ほどであそこまで迫り出してきているので……」


 俺がそう答えると、重蔵はなるほどと言った様子で、


「ふむ。まぁ封印それ自体も、以前より力を入れなくなったということだから緩みが速くなっているのも仕方がないのか」


 これに椛は頷いて、


「もう封印に全力を注ぐのはやめましたからね。以前は土御門の中でも最精鋭たちをここに配置し、全力で封印維持をさせていましたが……今は下げて、決戦の日のために回復してもらっています。もちろん、武尊様から真気譲渡と《治癒》の秘術を施してもらっていて……」


「それだ。椛殿のその見た目、事情は聞いたが、力も全盛期通りなのか?」


「概ねは。いいえ、おそらくはそれ以上の状態かと。土御門に嫁いで、さまざまな実験などを行った結果、真気や内臓に問題も出ておりましたから……それも全て治ったので」


「ううむ……素晴らしいな……わしも同じ恩恵に与れないだろうか……」


 チラリ、と重蔵がこちらを見る。

 うーん、気持ちはわかるのだがどうだろうか。

 東雲家にもおそらく、仙具の類はあるはずなのだよな。

 それを活用すれば若返り自体は可能なのかもしれないが……。

 あとは俺が無理やりなんとかするとか?

 あれから色々と仮説を立て、小動物などで実験して限定的な若返りであれば可能になった。

 とはいえ、人間でまだ試していないため、いきなり使うというのものな。

 そんな風に考えていると、重蔵は、


「ふむ、可能性はありそうだな……よし、武尊。あとで話がある。良いか?」


 と言い出した。

 こうなると昔から人の意見はあまり聞かない男だ。

 昔だったら無理やりにでも言うことを聞かせる、みたいな感じだったが……今はそこまでではないだろう。

 洗脳みたいなのも解けてるしな。

 ただ、そもそもの好奇心とかやりたいことをやってやるという部分に変わりはない。

 話を聞くまでは面倒臭いことになるだろう。

 そう思った俺は仕方なく頷いて、


「わかりました、重蔵様。一度、土御門に戻ってからでいいですよね」


 そう言った。

 重蔵はこれにニカっ、と笑い、


「もちろんだ。楽しみにしているぞ」


 そう言ったのだった。

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