第361話 結集
「椛様! これはどちらに!」
「それは向こうだ。あぁ、東雲の連中に伝えておいておくれ。最前線に立つ者にはうちの宝物庫の業物を無条件で貸し出すと」
「承知しました!」
封印の洞窟内に、そんな声が響く。
中は大変に慌ただしく、大勢の呪術師、気術士たちが行き交っている。
俺たちがここに初めて案内された時から、すでに一週間の時が経過していた。
あの日に椛を始めとする土御門家、それに京都呪術師協会の覚悟は決まったらしく、封印が解けたら総力戦で戦う方針での準備を始めた。
実のところ、結構揉めていたらしい。
結界を維持し続ける方向で全力を賭けるか、それとも結界の維持は最低限……戦う準備が出来るその日までと日にちを切って、その上で大妖を倒すために呪術師たちの総力を結集するかの二択で。
土御門家はどちらかというと維持の方で考えていたらしいが、それも限界に来ていた、と言うのが真実だったようだ。
確かに後になってみると、この封印を支えている呪術師たちは、ほぼ全員が土御門家の者たちだった。
では他の家の者たちはどこにいたのか、というと、それこそここの封印が崩壊することを前提に戦支度を整えていたらしい。
何もしていなかったわけではないのだな。
ちなみに、関東からの応援も次々にやってきている。
まず、北御門家の術者たちが到着したが、美智の計らいで最精鋭がやってきたのは少し驚いた。
別に手を抜くと思っていた訳ではないのだが、関東の気術士にもそれなりにやらなければならないことがある。
関東にも封印の類はいくつかあるし、それに加えて邪術士との戦いもあるからだ。
北御門はその上、俺のせいというか、俺の件で西園寺と南雲に対して気が抜けないところもある。
だから、送ってきてくれるのはおよそ中位の家程度の実力者たちだろう、と思っていた。
それでももちろん十分なのだが、まさかここまで手厚いとは。
それは土御門の人々も同感のようで、椛はその声にじんわりとした感動を宿していた。
「……本当に、総力戦が出来るんだね……仮に負けたとしても、これなら悔いはないさ」
そんなことを言うくらいに。
そんな椛に、
「あんな長っ鼻に負けることなんてありゃせんぞ、土御門の」
と、東雲家の精鋭を連れて当主自ら乗り込んできた重蔵が言う。
「長っ鼻って……大天狗相手にそんなことを言えるのは、貴方様くらいですよ、東雲の」
椛は上品に笑っていう。
「そんなことはないわ。ここにももう一人おるからな……」
そう言って俺の頭にポン、と手のひらを乗せる重蔵。
今ここには、俺たち三人しかおらず、声も誰にも届かないからこその言葉だった。
それでも、聞かれたとしても問題ないような表現をしているが。
重蔵が知っていることを、椛は俺と重蔵の会話を聞いてすぐに気づいた。
まぁ普通なら気付けないだろうが、椛は俺が俺だと気づいてしまっているからな。
繋げるのは簡単と言うことだ。
「大妖と実際に相対したことのある方は本当に、剛毅ですね……。私はあれを見て、まだ体が震えるのが抑えられません」
椛はそう言って、封印を見上げる。
そこには、上半身全てが黒い穴から出てきている、巨大な大天狗の姿があった。
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