第358話 参考意見

「……あのすでに出ている腕を攻撃ないし破壊することはできないのですか? ちょうど拘束されているのですし、いいかと思うのですが」


 咲耶が思いついたようにそう言った。

 しかしこれには椛が首を横に振る。


「出来るならすでにやっているさ。よく見てみてくれ。封印の雷があの腕にも巻き付いているだろう。あれを切り落とすとなると、封印ごとと言うことになる。そしてそこから穴が開き……あとは堤防の壊れた皮の如しさ」


 これには咲耶も納得せざるを得ず、押し黙った。

 それから椛は続ける。


「ただ、この封印は見ての通り、すでに危うい。騙し騙し維持してるに過ぎないのはみんななら分かるね。だから、封印が外れた時のことを考えねばならない」


「大妖を倒す、ですか?」


 こう尋ねたのは龍輝だ。

 少し探るような、それでいて面白そうな表情をしている。

 龍輝にとって、婆娑羅や家の仕事で対応している妖魔というのは大したことがなく、手応えがないからだろうな。

 大妖とも戦ってみたい、そういう感情が見える。

 俺や咲耶ほど好戦的ではないものの、自分の力を存分に振るってみたいという気持ちがあることは、同じだ。

 椛はそんな龍輝の気持ちを読み取ったのか、苦笑しながら、


「……北御門の術者は皆、勇ましいね……普通、大妖が開放間近と聞けば、怯えるものだが……」


 と言う。


「恐ろしくないと言えば嘘になりますが……しかし、そうなると分かっているのなら、もはや覚悟を決めるしかないでしょうから。あとはどこまでやれるかの話です」


「確かにそうだ。我々、京都の呪術師もそのくらいの覚悟は決めているよ。ただ、誰も大妖と戦ったことがある者がいないからね。恐れる恐れない以前に、どの程度やれるのかも正直分からないんだ。あの穴から漏れ出す妖気からその強大さは伝わってくるが……その点について、北御門の術者はどう考えるか意見を聞きたいね。そのために連れてきたのもある」


 椛がチラリと俺の方に視線を向けてそう言ったので、なるほどと思った。

 彼女は俺が、鬼神島で妖魔の首魁……つまりは大妖と戦ったはずだ、ということを理解している。

 その上で目の前の結界に封じられた存在はどうなのか、対抗しようがあるのか、ということを聞きたいのだろう。

 こればかりは、俺にしか答えられないことだろうな。

 まぁ重蔵や景子、それに慎司たちも答えられるだろうが、あいつらは来てないからな。

 重蔵は後で来る可能性はあるが、他二人はまず来ないだろう。

 そんなわけで、椛としては北御門に参考意見を、と言う建前で俺に何か言って欲しいわけだ。

 これにはとりあえず、咲耶が答える。


「ここにいるだけでも震えるほどの力に感じますが……それでも、儀式気術などを事前に準備しておけばやれないことはないように思います」


「ほう? それはあの大妖を過小評価していないかね?」


「その可能性もないとは言えませんが……大妖は結局のところ、妖気を扱う妖魔です。この場で封印できているのは、その妖気を減衰する技術があるわけで……儀式気術にはいくつかそのようなものがあるはず。呪術にあるかどうかは存じ上げませんが……」

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