第356話 封印場所

 神主と椛に先導され、連れて行かれた先は意外にも神社の本宮というわけではなかった。

 そこを通り過ぎ、さらに奥へと道が続いていた。

 いくつかの漆黒の鳥居を通り過ぎ、階段を登っていき、森の中に作られた小道を進んでいくと、急に視界が開ける。

 するとそこにあったのは……。


「洞窟、ですか」


 ぽっかりと開いた、洞窟だった。

 ただの洞窟ではなく、巨大な一枚岩の一部が侵食されて形作られている、そんな洞窟だった。

 俺の言葉に神主が、


「ここはおよそ千年ほど前にできた場所だと言われています。かつて、ここに向かって逃げてきた大妖、それを発見し、そのままここに封印したと……元々この一枚岩はこの神社の御神体でしたから、強力な封印を張ることに運良く成功したようです」


「なるほど……」


 自然物に強力な真気が宿ることは間々ある。

 特に古くからこういった神社などに祀られている巌の類は余計に。

 元々、そのような場所をこそ人が重要視してきたというのもあるし、年月をかけて人の祈りによってそのような場所に変容することもあるからだ。

 ここは、どちらかというと元々強力な力が宿っていた場所なのだろうな。

 そういった自然物は、気術の触媒としても非常に有用で、大妖の封印にもそのような使われ方をしたということだろう。


「では、中に入っていきます」


 神主がそう言ったので、俺たちは続く。

 中は思ったよりも広い空間になっていて、大人三人くらいなら横並びで通れるような感じだった。

 天井も割と高い。

 人の手で削ったのか、その大妖とやらが逃げ込んだ時に破壊したのかは分からないが……。


「……武尊様。強い力を感じます」


 咲耶がそう呟いた。

 先ほどまで全く感じられなかった妖気が、この洞窟に入り込んでから感じられるようになった。

 長年封印が施されてきたとはいえ、そこから全く何も漏れ出さないというわけにはいかなかったのだろう。

 洞窟内に一千年もの間、充満し続けた妖気は、心が弱いものならばそれだけでショック死しかねないほどのものだ。

 実際、神主と共についてきた巫女の一人が、冷や汗を流しつつきつそうにしている。

 この中で最も真気の弱いのが彼女だ。

 これ以上はやめた方がいい。

 そう思った俺は、


「あの」


 と口を開く。

 神主が振り返って、


「はい?」


 と尋ねてきたので、


「こちらの巫女の方がかなり辛そうです。このままだと心身に異常をきたす可能性があるので、戻らせたほうがいい」


 そう言った。

 すると神主は驚いて、


「……すみません、気づかず……考えてみれば、ここのところこの空間に漂う妖気はかなり濃密になってきていますね。涼子さんには辛かったでしょう……戻ってください。戻ることはできますか?」


 そう言った。

 なるほど、ここまで濃い妖気に満ちるようになったのは最近なのか。

 まぁ、これだけの妖気が千年間ずっと充満してたなら、ここから妖魔が発生しかねないくらいだし、納得出来る。


「……はい、分かりました……戻ることは、出来そうです……」


 涼子、と呼ばれた巫女はそうは言ったが、まだ辛そうだったので、手を貸し、少しばかり真気を流す。


「……? 少し楽になりました……なんとか戻れそうです。では」


 何をされたか気づかずに、彼女はそのまま戻っていく。


「武尊様よ、すまない」


 椛がそう言って礼を言ったので、俺は首を横に振り、


「いえ、お気になさらず。それより進みましょう」


 そう言ったのだった。

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