第355話 裏鬼門

「……どこに向かわれているのですか?」


 車の中、咲耶が尋ねると、椛が答える。


「南西だね。ちょうど、京都を挟んで今までいた土御門家の反対。そちらにある神社……だが、名前も場所の公開はされていない。呪術師だけが知っている特別な場所さ。なぜ特別かは……言うまでもないね」


「封印ですか……裏鬼門にあるのですね」


 封印がどこに隠されているかについては気になっていたが、これで明かされることになる。

 土御門家が鬼門にあったことから、周辺にあるのでは、と思っていたが反対の裏鬼門の位置にあるのは少し意外に思えた。

 いや、あえてそういう配置にすることで、魔をしっかりと封じ、かつ京都の発展のために力を巡らせていたということかな。

 それからしばらくの間、車はゆっくりと進んでいった。

 途中、関係者以外立ち入り禁止、と書かれた看板をいくつかどけて通ったことから、一般人はまず入れない場所なのだと分かった。

 しかしその割には道路は広く整備されていて、異様な感じもあった。

 それこそ認識阻害系の術がかけられているから、普通の人間がこの道路を見たところで何の疑問も抱くことはないわけだが。

 

 そしてたどり着いたその場所には、美しい境内のある神社があった。

 建物も壮麗であり、かなりの費用を使って建てられたものであろうことが分かる。

 現在進行形でしっかりと整備されていて、使われていることも。

 境内に入ると、すぐに神主らしき人物と巫女が椛の元へと駆け寄ってくる。

 その表情は少し驚きに彩られているように思えた。

 

「貴女は……いえ、貴女様は、本当に椛さま……なのですね?」


 神主らしき男がそう尋ねた。

 まぁ、そりゃ聞くだろう。

 今の椛の姿は十歳ほどの少女だ。

 呪術によって見た目はいくらでも誤魔化せるとは言っていたが、特にここで誤魔化すつもりはないらしい。

 それにそれでも神主に話は通っているようだ。

 椛は頷いて、


「あぁ、おかしな感じがすると思うが、あまり気にしないでおくれ。すでに蘭も来たのだろう? 見た目にはだいぶ変化があったと思うが」


 そう言った。

 俺はそこであぁなるほど、と思う。

 蘭がすでにここに来て、顔を見せて事情を説明していたがゆえに話が早いのかと。

 実際神主は言う。


「はい……見るまでは電話をもらっても信じられませんでしたが……実際に目にすればあの方だと頷かざるを得ませんでした。私も同い年で同じ学校に通っていましたから、年甲斐もなく青春を思い出し……いえ、それは余計ですね」


「ははは。そういえばそうだったね。まぁ、そう言うわけで、私もこんな見た目さ。普段は誤魔化すつもりだが、ここではなかなかそういうのが難しいからこれで通すよ。外部には内緒にしておいてくれ」


「それは他の呪家じゅかにもですか?」


「どこまで信用したものか、今はなんともいえないからね……ま、言っても言わなくても封印維持には関係ないし、いいだろ。さ、そろそろ封印へ案内を。北御門家のお客人たちに封印を見せねば」


「畏まりました。みなさま、ではどうぞこちらへ……」


 そして進んでいく神主の後を俺たちは負った。

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