第354話 効果
それから、椛と蘭によって何人かの土御門の古老と限界まで真気を使い果たしたベテラン術師を選抜してもらい、《治療》を試させてもらった。
選抜された土御門の術師たちは古老の方には椛からある程度のことが伝えられたが、ベテラン術師の方には詳しい内容が伏せられた。
これは前者は失敗すると死ぬ可能性もないとは言えないということと、椛の戦友ばかりだったので、信頼が置けるから、というのが大きかった。
ベテラン術師たちの方は信頼できないというわけではないのだが、まだまだ若いために欲望が枯れてないところがあって、ただでさえ真気を譲渡し回復できる存在にぎらつく可能性があるのに、若返りが、なんて話になったら余計にまずいということだった。
まぁその通りだったな、と思ったのは、《治療》を全員に施した後のことだった。
古老たちは歩行すら困難だったものたちが、矍鑠とした元気な老人になり、今にも封印維持に向けて飛び出しかねない様子だったが、ベテラン術師たちは呆然とした様子で俺を見て、そのあとは自らの子供や親戚との縁談を薦め始めたからだ。
古老たちの方がそういう欲望は醸成されて強くなっていそうなイメージがあったが、そうでもなかったというか、後から聞くと椛が選んだ彼らはもはや、自らの家がないような天涯孤独な者たちだったらしい。
自分の家が残っていればベテラン術師たちとさほど変わらなかったかもしれない、とは言っていた。
まぁどちらにせよ、咲耶が睨みつけて終わったからあまり気にするようなことではなかったかもしれないが。
「……これでもう少し余裕がある交代制が組めそうだね。風彦たちもやる気満々だし」
そう言ったのは椛であった。
落ち着いた老人のような口調であるのに、その見た目はおかっぱ頭の着物姿の少女であるから不思議な感じがする。
彼女の視線を向けている方向には、膝をついている老人たちが五人おり、彼らは俺が《治療》を施した古老たちであった。
いずれも最低でも八十を超えているというが、とてもではないがそんな風には見えない。
体に満ちる気は大きく、強く、そして迸るようだった。
俺が《治療》を施す前は、皆、体のどこかしらを悪くしていて、歩行すら困難だったようには思えない。
真気も滞って、術師としても使えるような有様ではなかった。
やはりこの《治療》の効果は大きい、としっかり確認出来たな。
「わしらにお任せください。これだけの体と真気があれば、封印維持など朝飯前ですぞ。真気など、現役時代を超えているとすら感じます……!!」
椛の言葉に、応えたのは風彦、という老人だった。
彼は椛がここに嫁いできた時点で着いてきたらしく、口調は若干、京都の訛りによっているものの、ほぼ標準語だった。
そんな彼に、椛は、
「期待しているよ。だが、無理をすることはない。私たちがすべきなのは、可能な限り長く封印を維持することなんだからね……では、行くといい。私らもあとで行くのでね」
そう言った。
風彦たちはそれに「はい!」と返答して、どこかへと消えていく。
封印に向かうということだが、封印がどこにあるのか俺は知らないからな。
しかし……。
「さて。それじゃあ、私たちも行くかね」
と椛が言う。
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