第350話 年の功
「十歳……ふむ、本当だね。これは……若返るにしても若返りすぎな気がしないでもないが……」
年の功なのか、椛は手鏡を見てもさほど表情は動かなかった。
しかし、その瞳には確かな驚きの色があるのも、鏡越しに分かる。
それから椛は俺の方に振り向いて、
「武尊様や。これは一体どういうことなのか説明が欲しいのだがね……?」
この質問に誰よりも困ったのは俺だった。
なぜこのようなことになったのか、その作用機序が俺にはまだわかっていないからだ。
普通に全盛期まで若返る、までならまだ理解できた。
そのような結果になると。
だが十歳前後というのは……十歳前後が、この人の全盛期なのか?
いや、そんなわけはないだろうが……。
なんと答えたものか迷う俺の表情を見て、椛も色々と察してくれたらしい。
少し息を吐いて、俺以外の面々に、
「……みんな、少しばかり席を外してくれるかい。私は武尊様と少しばかり、二人で話さなければならないことがありそうだ」
そう言った。
これに紫乃が、
「大お祖母様……その、二人きりというのは……」
大丈夫なのか、と言いたげな表情でそう言う。
いくら協力にやってきたと言っても、他家の人間と二人きりというのは危険なのではないか、とそういうことだな。
しかしこれに椛はくつくつと童女のように笑い……いや、そのまま童女なんだが、どこか怪しさも秘めてるのでそんな表現になる……言った。
「武尊様が私に何をするって言うんだい。殺したいなら、私の背後に回った時点でそれをすればいいだけなんだからね。そもそも、こんな風に回復する前なら、殺す価値もない老いぼれだ。気にしてもしょうがない話さ」
これには紫乃も、確かに、とは言いかねたが納得したらしく、
「では、失礼致します……」
と言って下がった。
咲耶は若干不服そうな表情だったが、仕方がないと龍輝と共に下がる。
それから三人の真気が、まずここでの会話を聞けないくらいの位置まで遠かったのを確認すると、椛は言った。
「ううむ、何から話そうかね……迷ってしまうよ」
と本当に困惑したようにこちらを見つめて、微笑んだ。
どこか、何かを懐かしむようなその表情に俺は首を傾げる。
「ええと、その若返りについてのお話では……」
そのために人を遠ざけたのだと思ったからこその台詞だった。
それ以外に何もないだろうと。
しかし椛は、
「それも勿論、あるのだが……そうだね。さっき、私は北御門の出身だという話をしただろう?」
そう言った。
確かにそんなことを言っていたな。
しかもかなり前の話だ。
今、百歳くらいだとすると……七十年から八十年くらい前の話になるのだろうか?
ちょうど、俺が死んだ時期の数年前、くらいかな……。
そんなことを考えつつ俺は言う。
「ええ、聞きました。大した家の出ではない、とまでおっしゃっておられましたけど、先ほど感じた真気量からするととてもそうとは思えないほどでしたが」
「おや、そこまで分かるのかい……いや、まぁその辺りのことはいいんだがね。武尊様よ、私は昔……見たことがあるんだ」
「何をでしょう?」
何も警戒していない質問だった。
しかし、度肝を抜かれたのはこの後のことだった。
「巨大な真気だけを持ち合わせた、不幸な本家の御曹司のことをね。懐かしい……彼の名前も、タケル、と言ったか」
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