第349話 若返り

 椛に真気を注いでいく中で、初めのうちは違和感はなかった。

 と言っても、体内のボロボロ具合は蘭の比ではなかったが。

 蘭はあくまでも疲労によって体内にもダメージが来ている、と言う感じだった。

 身体の酷使もここ最近のものであって、だから治しやすかったと言える。

 しかし椛は違う。

 非常に長い間、体を悪くしてきたと言うことがよく分かる。

 これは相当に力を注がなければ、治すことなど出来ないと言うくらいには。

 気術だけでいけるだろうか?

 仙術まで使う必要も……しかしその場合、この《治療》の効果はどうなる?

 いや、治すのが先決であって、若返りどうこうはまた別に機会に考えてもいいのではないか……。

 そんな考えが俺の頭の中を色々と行きすぎて言ったが、体内を回復する中で、やはり気術だけだと厳しいと結論が出たので、思い切って仙術の行使まで開始する。

 まぁ、どうせ普通の人間にも、そして気術士呪術師であっても、見てもわからないのが仙術だ。

 そうと言われなければ、仙術だとはわからない。

 気術が行使されている最中であれば、なおさらに。

 そう思って、俺は仙術を使っていく。

 咲耶だけ、わずかに眉を動かしたから、何か気づいたのかもしれないが……まぁいいだろう。

 そして、椛の体を回復させていくと、


「……あぁ、大お祖母様の肌が……」


 と紫乃のつぶやきが聞こえた。

 俺は背中側にいるから、蘭の時と同様あまりわからないが、彼女の時と違って首筋まで見えるゆるい服装を椛はしているので、確かに肌のハリや色合いが若返っていくことが分かる。

 仙術を使っても、効果にさほどの変化はないと言うことだろうか。

 真気も器に向けて流していっているが、かなり大きな器を持っているようで、多めに力を注いでもまだ足りない。

 大した家の出ではない、と言っていたが、その割には真気が多いタイプなのだろうか。

 それとも、ここに来てからの修練で器を広げたか……邪術士に近いような実践をしてきたという話もあるので、およそ普通ではない方法によってそれを実現した可能性もあった。

 だからこその、身体の傷つき具合なのかもしれなかった。

 まぁ、これだけの力を持った人物が戦線に復帰できるとすると、それだけでもかなりの戦力増強になるだろうし、俺たちにとっても助かる話である。

 だから、本気になって力を注いでいくが、途中から妙な現象が起こった。


「……あ、あれ……? 若返って……いえ、これは……」


 紫乃が首を傾げだす。

 どう言うことか、と思って椛を見ると、シュルシュルと、少しずつ……なんだ。

 体が縮小していっていないか?

 失敗か、と思うも、まだ身体の回復はしきれていない。

 だから、まだ続け……そして、完全に健康な状態を取り戻した時点で、力を注ぐのをやめた。

 すると……。


「おや、もう《治療》は終了かえ? ふむ……確かにだいぶ楽になったわ。真気も満ちているし、肌も……確かに若がっているね」


 椛が自分の顔を触りながらそう言った。

 しかし、紫乃が、


「お、大お祖母様……」


 とおずおずと言う。

 椛が首を傾げて、


「何かえ? あぁ鏡など持っていないかい? 姿を見てみたいのだが……」


 と言ったので、紫乃は手鏡を渡しつつ、言った。


「驚かれないでください。今の大お祖母様は……十歳前後に、見えます」

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