第347話 繋がり
「……大お祖母様、失礼致します。紫乃です」
紫乃に連れられて、俺たちは屋敷の最奥にまでたどり着く。
そこで紫乃は正座をし、障子戸にそう声をかける。
すると向こうから、ひどくしわがれた声で、
「……紫乃か。確かお客様のお相手をしているのではなかったかえ……いや、そのにある気配は……まぁいい。入りなさい」
そう返ってくる。
声自体にはかなりの衰えが感じられるものの、頭の方はしっかりとしていることがわかる。
紫乃はそれに頷いて、
「では、失礼致します」
そう言って障子戸を開いて、俺たちに中に入るように促し、そして最後に入ってきて障子戸を閉めた。
「……ふむ。やはりこの方々は……懐かしい気配がするね。北御門のお客様かえ」
部屋の中に敷いてあった布団に横になっていただろうその人は、上半身だけ起き上がり、こちらを見つめてそう言った。
寝たきり、と聞いていたが、全く動けないというわけではないらしい。
視線もしっかりとしている。
「はい、北御門咲耶様、時雨龍輝さま、そして高森武尊様です」
紫乃がそう言ったので、俺たちはそれぞれ頭を下げた。
「北御門のご令嬢に分家筆頭、そして……タケル、様と言ったね。懐かしい名前だ。あぁ、私は
椛がそう言って微笑む。
しかし懐かしい?
不思議に思ったのは俺だけではないようで、咲耶が尋ねた。
「あの、懐かしいとは……?」
「あぁ、聞いたことないかえ。まぁ、古い話だし、仕方がないか……私は元々北御門の人間だ。こっちに嫁いできて長いから、もう完全に土御門に染まっているけれどね」
「そうだったのですか……!」
咲耶が驚いているので、これについては教えられていなかったのだろうな。
教えていても良さそうなことだが……まぁ、関西の事情に関してはあまり触れないところがあるし、かなり前の世代のことだからと捨ておいたのかもしれない。
しかし、意外なところで意外な関係者がいるものだ。
「大した家の出ではないけどね……なぜか夫……元治様に見染められてね。人生というのはわからないものだよ。ま、そんなことより、どうしたんだい? 私は今はもう、特にできることもなく、隠居している身だが……忙しい今、私なんかに貴重な時間を割く意味があるとは思えないがね」
これには紫乃が答える。
「それについては色々ありまして……あの、大お祖母様、なんと申しますか、《治療》を受けてもらえないかと」
なるほど《治療》か。
いい言い換え方があったものだな、と思う。
若返りの術をといきなり言っても信用できないだろうしな。
実際に蘭を見れば一発だろうし、隠すわけではなく話のとっかかり程度の言い換えだろうが。
「《治療》だって? ふふ。紫乃、お前もわかってるだろう。この体にはもういかなる治療も通用しないよ。術医にどれだけ手を施してもらったと思ってるんだい。もちろん、私だって、生い先短いこの身を、最後にどうにか使ってから死ねないかと思うこともあるけれどね。せいぜいがこの場で出来る術具作り程度のものさ……」
「普通の治療ではないのです。その……お母様が……若返られたのです。二十歳くらいの姿に」
「なんだって?」
「ここにいる武尊様が、そういう特殊な術をお使いになれるのです。ですから、それを大お祖母様にもと」
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