第346話 相手は誰か
「……誰なのかにもよるが。さっきも言ったように、あの術はどういう仕組みでああなったのか、理屈がわからない。つまり失敗する可能性もある。悪い術は使っていないから、死ぬようなことはもちろんあり得ないと断言できるが……」
術の基本は、真気の譲渡と、身体の回復に過ぎない。
どちらも未熟な使い手が行えばそれこそ大失敗して死ぬ可能性まであるが、俺はこれらの術について失敗することはまずあり得ない、と断言できる程度には研鑽してある。
まぁ、その結果よくわからない効果が出てしまっているので、あれを失敗と定義するのであれば失敗になってしまうが……。
俺の言葉に紫乃は、
「そうですね……かけていただきたい相手は、私の曽祖母です。御年百歳を超えてて……体も真気も酷使しすぎて、ほとんど寝たきりになってしまっていて」
「曽祖母……じゃあ本来、当主はそちらの方なのでは?」
大体、気術士にしろ呪術師にしろ、家の当主は直系のうち、最も年配が務める。
家によっては多少のズレはあるし、若いのに早いうち譲って隠居というのもあるが。
ただ土御門ほどに大きな家ともなると、それほど早い隠居ということはまずあり得ない。
まぁでも、すでに百歳ということであれば、別におかしくはないか。
しかし紫乃は首を横に振って、
「いえ、曽祖母の代の当主は
そう答えた。
なるほど、今の当主が女性だから、この家は女系なのかなとか無意識に考えてしまっていたな。
北御門も女系が強い家であるのは美智や咲耶を見ると分かるが、気術士の家は割とそういうことが多いから。
だが土御門は違うようだ。
力が強ければどちらでも、という感じかな。
「そうなのか」
「ええ。大お祖父様が亡くなられた後、お祖母様が家を継がれて……でも、封印維持に思った以上の力を使って、お祖母様もまた、亡くなられてしまいました。そして、お母様が当主に」
この話に咲耶が、
「封印維持はそれほどに過酷なのでしょうか」
と尋ねる。
確かに、これではまるで生贄に近い気がする。
紫乃はこれに、
「大お祖父様の代までは、それほどでもなかったというか、定期的な点検さえしていれば問題なかったようです。ただ、お祖母様の代から徐々にその頻度や、消費される力が増えていって……今では土御門の実力者が総出で行わなければならないほどになってしまいました。おそらく、お祖母様の代から、封印が緩み始めたのだと思います」
「そして今が末期状態ということですか……」
「はい。ですけど、お祖母様が仮に若返ってくれれば……かなり楽になるんじゃないかと。お祖母様は昔は相当な術者でしたが、お祖母様の代の時に心身を酷使されて……」
その割には百歳を超えてまで生きていて長生きだな、と思うがこれは力に長けた術者ほど長生きだからだな。
体がある程度悪くなっても、真気が健在であれば命を長らえることはできてしまうのだ。
その状態での長生きこそ、強力な術者であったことの証明だろう。
しかし、今は体が悪いから、封印維持にも出られないと。
そういうことなら……。
「であれば、回復した方が良さそうだな。もちろん、確実とは言えないが」
俺がそう言うと、紫乃はパッと視線を上げて、
「ほ、本当に!?」
と言ってきたので、頷いて言う。
「あぁ。もし若返りに失敗してもそれだけの術者なら立ち歩けるくらいまでの効果は望めるだろうしな。封印の維持について俺たちは協力するために来たんだし。なぁ咲耶」
そう言うと咲耶も頷いて、
「そうですね。それくらいでしたら」
と言った。
これで許可も出たことになる。
そして紫乃は、
「ほんまに、おおきに……」
と少し顔を伏せて言ったのだった。
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