第343話 これからのこと

 何も気にしてない、むしろ嬉しい、と言う蘭であるが、本当にいいのか?

 どう反応していいものか迷って咲耶を見ると、彼女は言う。


「永遠の若さは女性の夢。それに近い、若返りの力は……間違いなく、女性誰もが欲しがるものです」


「……そういうものか」


「ええ」


 何か強い確信と威圧感を持って断言された。

 これは反論し難い。

 蘭も、


「うちも全くの同感どす。ただし、ややこしいのんはこれが広まってまうと、武尊様の争奪戦始まるやろう、ちゅうこっとすなぁ」


 と頬に指を沿わせながら言う。

 年齢的に若くなったから、その仕草に可愛らしさが宿る。

 うーん……これは、かなりの男を惑わせてきたのでは。

 そしてこれからもそういうことが起こるのでは。

 そんな気がしてしまう。

 ……まぁ、俺には関係ないか……俺は悪くない。

 蘭の言葉に咲耶は、


「確かにそうなるでしょう。ですが、武尊様は我が北御門の分家の者。他のどこにも、渡すつもりはありません」


「どすけど、ほら。縁を繋ぐために他家と結婚することもあり得るでしょう?」


「それもありません。武尊様は、私の許嫁ですから」


 咲耶が力強く言い切る。

 それを聞いた蘭はふっと微笑み、


「あらあら、怖い怖い。武尊様は随分な色男のようどすなぁ」


 そう言ったので、


「いや、私は……」


 と言うが、蘭は続けた。


「かんにんえ。おちょくりすぎたなぁ。そないなつもりはあらへんさかい、安心しとぉくれやす。咲耶はん」


「え?」


「許嫁がいーひんのやったら、うちの紫乃と、やら考えたかもしれしまへんが、咲耶はんと武尊様許嫁なのはこちらでも知ってますさかい」


「そ、そうですか」


 咲耶が珍しく少し焦り気味なのは、蘭は似たようなタイプの上手だからだろうな。

 いくら才媛とはいえ、自分よりずっと年上の、経験豊富な人の前では咲耶でも小娘に過ぎない。

 

「ただ、先ほど言うたこと……武尊様の取り合いが始まってまうちゅうのんはほんまのこっとす。今回のことは、ここだけの話にしといた方がええやろう」


「それは……そうですね。ですけど、蘭様のそのお姿について、土御門の方々にどう説明を……?」


「それについてはなんとでもなりますえ。呪術には見た目ぇ誤魔化す術もあるんやし、この姿でもうちやちゅうこと証する方法もなんぼでも考えられるさかい」


「そうですか……」


「ただ、なんでこうなったのか。また再現は可能なのかは気になるなぁ。あぁ、うちの利益やらやなしに、今、土御門では老齢の術士が多う、封印の維持にあたってます。それなんとか全盛期の状態に持っていかったら、それだけでも大変な助けになるさかい。どうやろうか、武尊様」


 蘭が俺の方に視線を向けて尋ねてくる。

 というか、今気づいたが、いつの間にか呼び方が武尊様、になっているな。

 俺を評価してくれたということなのだろうが……。

 どうしたものか。

 俺もなんであんなことになってるのか、まだ理論が立てきれていない。

 いくつか仮説はあるが……他の人間にやって同じようになるかはなんともいえない。

 ただ、真気の譲渡についてだけは間違いなくできるが……。

 

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