第342話 結果

 んん?


 そう思って俺がふと咲耶の方を見つめると、彼女は珍しくも唖然とした表情をしていた。

 隣にいる龍耀も同様である。

 しかし、俺の視線に気づくと、二人揃って、


 (何をしたのですか、武尊様?)

 (お前何やってんだよ……)


 というアイコンタクトが飛んでくる.

 なんと答えたものかわからず、首を横に振ってから、とりあえずは結果を確かめねばと、蘭の顔を前に回って観察してみた.


 ……なるほど、若返っている。

 年齢の程も、確かに二十歳くらいかなという感じだ。

 紫乃がこのまま年齢を重ねていけば、数年後に辿り着きそうな美貌と落ち着きが感じられる。

 同時に、その瞳に宿っているのはそのくらいの年齢の女性には見られない、威厳だ。

 この人はやはり蘭なのだろう、とそれで理解できる。


「あの、うちの顔を観察するのんは構わへんどすけど、どうなってるんどすか? 先ほど紫乃が若返ったやらなんとかと」


 蘭がそう尋ねてくる。

 この言葉に紫乃は素早く立ち上がり、そして部屋を出ていく。

 一体どこに……と思ったが、とりあえず俺は言った。


「そう、ですね……なんとお答えすればいいのやら迷いますが、どうも副作用が出たようです」


「副作用?」


「ええ、その見た目が……紫乃が言った通り、かなり若返っておられます。私には二十歳くらいにしか見えません」


「えぇ!? ほんまなんどすか!?」


 そう言いながら、蘭は慌てて自分の顔を撫でたり、体を確かめたりし始めた.

 着物の中まで確かめているのは一体なんなのか。

 まぁ、こんな事態を招いたのだ。

 黙って待っているのが俺の義務だろう。

 そう思ってしばらくすると、


「…… ほんまのようどすなぁ。こら驚いた.一体なんでこんなんが……」


 と嘆息するように呟く。

 そして、俺が答える前に、紫乃が部屋に戻ってきた。

 その手には姿見が抱えられている。

 それを彼女は、


「お母様、実際にその目で見とぉくれやす」


 と言って蘭の前に設置する。

 蘭は立ち上がり、そして自分の顔と体を見つめた。

 そして再度ため息を吐いて、


「確かに、二十歳くらいの時に見とった姿のようどすなぁ……通りで体調がええはずどす。単純に呪力戻っただけとちがう。体そのものが若返ったように感じてました。まさかほんまにその通りやったとは……」


 と言った。

 俺は、


「若返った以外には、お体におかしなところは見られません。ですから、そういう意味では問題ないとは思いますが……そういうことではないですよね。このような結果になってしまって、誠に申し訳なく……」


 と深く頭を下げた。

 蘭は土御門家の当主である。

 ここまで大幅に姿が変わってしまうと、色々問題が出てくる可能性があった。

 それなのにこんなことになってしまったのは、責任の取りようがない。

 そう思ったのだが、意外にも蘭は、


「何言うてるんどすか? こないに素晴らしいことはあらへんどす。若返ったのどすえ?女性やったら誰もが、どれだけお金を積んでも欲しがる結果どす」


 そう言った。

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