第340話 危険のほどは

 咲耶の提案……真気の譲渡、という話を聞き、土御門蘭は目を見開いて言う。


「真気の譲渡なんてことできるん……? 今までそないなことは、よほど限定的にしか行われてへんかったけど」


 絶対にあり得ないこと、とは言わないのは、たとえば赤ん坊が生まれる時、母親から真気の譲渡を受けていると言われているなど、いくつかの特殊な状況下では真気の譲渡は行われているからだ。

 けれども、人為的にそれを可能にした技術は少ない。

 あっても大きな問題があったり、たいして意味がなかったりといったものしかない。

 

「副作用ね。やっぱしそないに上手い話には、裏があるわな。で、その副作用って? おっきな後遺症を抱えへん限りは、受けたいわ……」


 蘭の言葉に、咲耶は、


「少しばかり、真気の器が広がります。つまり、持てる真気の量が増えます」


「へぇ……え?」


 なるほど、という顔をしてから、呆気に取られたような表情をする蘭。

 咲耶は続ける。


「他にも可能性があるものはいくつかありますが、どれも身体や真気の器に障害が生じるようなものではありません。ですから、そのような意味では安心して受けていただけるものと思います」


 そんな咲耶の言葉に、蘭は、


「ふふ……ははは……あっはっは!!」


 と、笑い出し、涙を浮かべた。

 そして、


「そんなんなら、なんの問題もあらへん。むしろ望むところどす。ぜひ、おたのもうします」


 そう言った。

 しかし、ここで紫乃が、


「お、お母様……危険なのちゃいますか……?」


 と不安そうな表情で口を挟む。

 しかし彼女の母親の覚悟の決まり方はレベルが違った。


「紫乃、そやけど、他に方法はあらしまへん」


 もはや完全に受ける気でいる蘭に、どうしたらいいのか考えたらしい紫乃は、ふっと俺の方に視線を向けて、懇願するように言った。


「やったら……まずはうちにかけてもらえへんどすか。二人にかけられるんやったら、どすけど」


 なるほど、毒見ならぬ真気見といったところか。

 信用しきれない、というのはよくわかる。

 今まで存在しなかった技術だからな。

 加えて俺たちはなんだかんだ言って、土御門からしてみればぽっと出の人間だ。

 簡単に即断した蘭の方がむしろおかしい。

 だから俺は咲耶に視線を向け、彼女が頷いたのを確認してから言った。


「構わない。ただし、少し苦しい感じがするらしいから、そこについては受け入れてほしい」


「苦しい……?」


「こう、お腹いっぱいにご飯を食べた後みたいな感覚がするという人もいれば、何か異物を口から突っ込まれているような気がするという人もいる。まぁ、死ぬほど苦しいというわけじゃないから、そこは安心してほしい」


 まだ試行錯誤中で慣れていなかった時は、異物感がすごかったようだけどな。

 今となってはほとんどそういった感覚はないらしいが、一応忠告は必要だろう。

 俺の言葉に、覚悟を決めたような表情になった紫乃は、


「わかりました。どうぞよろしゅうおたのもうします」


 そう言ったのだった。

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