第339話 回復

「どうもこんにちは。私が土御門家の当主、土御門蘭どす」


 次の日、朝食を食べた後呼ばれていくと、そこには四十がらみの女性がいた。

 紫乃によれば、彼女は紫乃の母親であり、土御門家の当主であると言われた。

 そして冒頭の挨拶に至る。

 頭を下げられた俺たちは、まず咲耶から、


「……北御門咲耶です」


「時雨龍輝です」


「高森武尊です」


 と端的に挨拶していく。

 もっと色々話してもよかったが、土御門蘭の顔色があまり良くなくて、長く時間を取らせるのは申し訳ないような気がしたのだ。

 紫乃も心配げな顔で母親の様子を見ている。

 やはり、疲れているのだろう。

 そしてその理由は……。


「……気遣ってもろて申し訳ない。連日の封印の維持作業で呪力が空っぽになってかけてて、体調の維持すらも難しくなってるのどす」


 流石に彼女も俺たちがそのように振る舞っているのを理解したのか、素直にそう言った。

 これに咲耶が、


「呪力……真気が体調に影響するほど少なくなっているのですか。回復する暇は……」


 と言うが、土御門蘭は、


「そないなものがあればよかったのやけども、残念ながら。でもここで頑張らなければ、いつ頑張ればええのか。あれが封印から解放されてしまえば、京都はしまいどす」


 と言う。

 それほどまでに大妖は脅威ということだ。

 とはいえ、大妖にも格の違いはあるが、その中でもかなり強大なものが封じられているのかな。

 温羅クラスだと……まぁ普通の気術士では何千何万と束になったところで対抗しようがなさそうなのは、分かる。


「そうですか……でしたら、まず私たちからの支援をお受け取りくださいますか」


 唐突に、咲耶がそう提案した。

 これは俺たちの間で、ここに来る前に十分に相談した上で決めたことだ。

 おそらくは、このような状況になっているだろうとある程度想像していたから。

 土御門蘭はこれに首を傾げて、


「支援どすか? 後日、封印の維持自体に協力してもらえるものかと思っとったけど、それ以外に?」


 そう言った。

 このタイミングでの協力、というのが何か、想像がつかないのかもしれない。

 大妖が解放された後であれば、被害を可能な限り抑えるとか、大妖と戦うとかあるだろうが、今はその前段階だ。

 咲耶は続ける。


「紫乃さんと、蘭様を見るに、呪力は関東で言う真気と全く同じもの。呼び名が違うだけです」


「そらそうどすが、それがどうしたというのどすか?」


「私たちには、他人の真気……つまりは呪力を、瞬間的に回復させる手段があります。蘭様が体調に影響するほどに呪力を削られているのであれば、その呪力を回復させていただければと」


 これには蘭も紫乃も目を見開いて、


「そないなことがでけるのどすか!? 呪力の回復は、時間の経過以外には、特別な薬剤を飲んでその回復を早めるとか、そういうものしかなかったと思うのどすが……あぁ、北御門に伝わる特別なお薬でもいただけると? ほしたらありがたいどすが」


 そう言った。

 しかし咲耶は首を横に振って、


「いいえ、違います。そうではなく……こちらの武尊が、その真気を注ぎ込むことで実現するのです。ですから、正確には回復、というより真気の譲渡ですが……」

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