第337話 踏み込むと
「……どうぞこちらへ」
土御門紫乃が、私……北御門咲耶を案内している。
静かなその様子には、やはりどこか憚るようなものを感じている。
本来、関東の気術士と関西の呪術師の中は悪い。
それが四大家と呪術師協会の冷戦のような対立として残っている。
しかし、現代においてはそのような対立も意味がないと考えるような者も増えていて、今更……という感覚が私にはあった。
それなのに……。
色々考えても分からないのだから、ストレートに聞いてしまった方がいいかも、と思った私は、紫乃に言う。
「紫乃さん」
「はい、何でしょうか? 咲耶様」
「……まず、その言葉遣いはやめましょうか。いりません。それに、敬語も。そうなったでしょう?」
「……そう、でしたね……ええと……これで、ええでしょうか……咲耶はん」
その言葉に、ちょっと驚く。
考えてみれば、ここは関西。
素直に話したら、関西弁というか、京言葉になるのが普通か。
京都駅でも周りは普通に関西弁の人々ばかりだった。
しかし、紫乃は先ほどから綺麗な標準語だったので、変わりように驚いたのだ。
「そちらが、いつも通りの話し方なのですね……申し訳ないです。今まで、ご不便をかけたでしょう?」
「いいえ、そないなことはあらしまへん。それより咲耶はんの敬語は……?」
「私は普段から、誰に対してもこの話し方ですので。無理してるとかそういうことはありません」
「せやったらええんどすけど……」
「それよりも、ちょっと気になったのですが……?」
「なんやろ?」
「先ほどから、私に……というか、北御門家に何か、思うところがありそうな感じですが、土御門家と北御門家の間に何かあったのでしょうか?」
大したことのない質問のつもりだった。
実際、私としても思うところもない。
それなのに、その質問を聞いた途端、紫乃はぶるぶると震えて、
「そら勘弁しとくれやす……うちからは話せへんのどす」
「話せない? なぜ……」
「約束そやしどす……申し訳ないどす……」
本当に申し訳なさそうに、そう言われてしまうとこれ以上聞く気にもなれない。
そもそも、私としてはそこまで気になっているというわけでもないのだ。
ここに来たのは、あくまでも大妖の退治のため。
それを望まれる武尊様のお力になるため。
それ以外のことは、瑣末なことであると断じても何も間違いではない。
変に突っ込んで、土御門の人間と仲が悪くなるよし、それなら知らなくてもいいか、と私は思った。
だから言う。
「……ごめんなさい。そんなに怯えさせるつもりはありませんでした。私としては、ちょっときになったくらいで……それほど話したくないのであれば、話さなくて大丈夫ですよ」
「へっ……? ええんどすか……?」
「構いませんよ。それより、私のお部屋はどこになりますか? 後で一緒に来た二人のところを訪ねたいのですが、可能でしょうか?」
あからさまな話題ずらしかもしれなかったが、紫乃は救われたような表情で、
「あぁ、こっちどす。どうぞ、どうぞ。お二人を訪ねる際には、隣の部屋にうちがいてはるさかい相談していただいたらすぐにご案内します」
そう言ったのだった。
*****
あとがきです。
京都弁に関しては私が京都の人間ではないので正確性を考えて翻訳ジェネレーターみたいなのにかけて出してます。
なので大目に見てください。
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