第336話 相談

「さて、と」


 俺に与えられた部屋の中にとりあえず座った龍輝がそう言って話を切り出す。


「何か思うところでもあったか?」


 俺がそう尋ねると、龍輝は言った。


「いやぁ……具体的に何かあるわけじゃねぇけどよ。紫乃の物言い、なんか奥歯に挟まったような感じじゃなかったか?」


「それは……確かに俺もそう感じたな」


 何を思ってか、と言われると言葉にはし難いところではある。

 しかし明確に土御門家は北御門家に何か憚るところがあるような、そんな感じだった。

 古くは北御門と繋がっているとまで言われているのだから、古い時代に何かがあったということだろうか?

 だが、そんな歴史書にも載っていないような時代のことで現代においてもどうこうというのは流石にどうなのだろうか。

 別に美智も特に何も言わなかったしな……せいぜい、先方によろしくお願いしますね、と言っていたくらいで。

 何か深い意味でもあったのか?

 わからない……。


「ま、別に俺たちが考えなきゃならないようなことでもないかもしれないがよ」


「俺たちがここに来たのは、あくまでも封印関係に関する手伝いだからな。ひいては大妖を退治することでもある」


「今更だが……出来るのか?」


 深刻な表情でそう言ってくるのは、龍輝も大妖の恐ろしさは分かっているからだろう。

 実際に遭遇する機会などまずない存在だ。

 通常は、上位妖魔程度が限界であり、さらにその上に位置する大妖など、生まれてから死ぬまで、一度も見ることなく終わる気術士だって普通に存在する。

 というか大半がそうだ。

 それなのに、俺は、俺たちはその大妖を倒すつもりでいるのだから。

 しかしそれでも、この質問に対する答えは決まっていた。


「出来る出来ないじゃない。やるんだよ、龍輝」


「だが……」


「気持ちは分かる。歴史上、それこそ腕利きと言われる気術士が何人かかっても倒せなかったと言われることもあるような存在だからな。だが、お前も咲耶も、美智様から聞いただろう」


「あぁ……これから大妖がいくつも封印から復活するって。あれはマジなのか」


 俺から温羅に聞いたことなんだが、とは話せないので、その辺りの情報については美智に、当主からの情報ということでうまく伝えてもらっている。

 流石に俺も、二人に本当に何にも知らないまま大妖退治に参加してもらうなんてことは不義理すぎて出来ないからな。

 なぜここで封印ではなく退治に挑戦しなくてはならないのか、その理由くらいは教えておくべきと思った。

 ちなみにこの情報については、北御門内部において、順次広めていってもらうことになっている。

 今回は京都だが、次が関東でないとは言えないからだ。

 その時のために覚悟と準備をしてもらう必要がある。

 そんなことを考えつつ、俺は龍輝に言う。


「美智様もあんなことで冗談を言われる方ではないからな。本当なんだろうさ」


「だけど……もしそうなら、日本は、この国は……」


「倒せなかったら滅びるんじゃないか? あぁ、妖魔の奴隷として国民が生きる国になるかもしれないが」


 これは冗談ではなく、外国において吸血鬼が支配する国というのが実際に存在しているからな。

 あり得ない話ではないのだ。


「そんなことさせるわけにゃ、いかねぇよな……」


「そういうことだ。俺たちに全てがかかっていると思って、やらねばならない」


「おう」

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