第335話 案内

 土御門本家建物は、やはりかなり歴史あることが分かるような感じで、平屋建てであり、廊下など、どこまで続いているのか分からなくなるほどだった。

 敷地自体は北御門本家よりも狭いのだろうが、あちらは庭として使ってる面積が広く、母屋建物はここまでではない。

 土御門本家建物は、母屋がほとんど全てなのかもしれなかった。


「時雨様と、高森様にはこちらのお部屋を使っていただきます。北御門様は……」


 紫乃がそう言ったので、咲耶が、


「咲耶で大丈夫ですよ」


 と言った。

 確かに北御門ではわかりにくい。

 後の会話で美智……というか、北御門家当主としての彼女の話も出るだろうからな。

 咲耶のそんな言葉に紫乃は、


「……ありがとうございます。では、咲耶様と」


「私も紫乃様とお呼びしても?」


「もちろんです……」


「それと、私のお部屋なのですが、なぜここではないのでしょうか?」


「やはり北御門家ご当主の孫娘でいらっしゃいますから、特別な配慮を、というのと、この辺りは主に男性の部屋ですので……」


「あぁ、なるほど……そういうことでしたら」


 咲耶が納得したのは、特別な配慮、という部分でなく、男の部屋が集合してるからやめておいた方が良いという部分だろう。

 まぁ別に咲耶の実力なら誰に襲いかかられようとも問題ないだろうが、咲耶は正直、若い男の周囲をうろちょろしてると目に毒な程度には美人だ。

 今、封印騒ぎで激務だろう土御門家の男達の中に咲耶がいるというのは、色んな意味で問題なのを察したわけだ。

 人間、限界近いときにこそ、本能が強くなるとも言うしな……。


「それでは、後でお呼びしますので、時雨様と高森様はどうぞ、お部屋でおくつろぎくださいませ。何か欲しいものなどありましたら、中に内線がございますので、そちらを使っていただければと」


 これには龍輝が答える。


「分かりました。ついでなのですけど、俺のことも龍輝でいいですよ。こっちの……武尊のことも、武尊で。いいよな?」


 龍輝が俺に確認を入れたので、俺は頷いて、


「あぁ、問題ない」


 と答える。

 それを聞いた紫乃は、


「でしたら、そうさせていただきます。龍輝様、武尊様。私のことも、どうぞ紫乃と」


「分かりました。あと、言葉遣いも出来ればフランクにしていただいてもいいですよ」


 これは通らない可能性を考えた上で、一応言ってみたのだろうな。

 龍輝だって、流石に他家との距離というか、言葉遣いを初めとする礼儀の必要性は分かっている。

 ただ、年の近いもの同士くらいは緩めてもいい、程度の感覚はある。

 だからそうしてくれないか、と思ったのだろう。

 これに紫乃は少し驚いたように目を見開いて、


「……ですが、いいのでしょうか?」


 と言った。


「何がです?」


「北御門家の方は……その、土御門家の人間に、その……気安い口を利かれても」


 これはよく意味が分からなかったが、ここにいる三人ともその程度でどうこう言うことはまずない。

 むしろ、普段通りの方が楽だったので、


「いえ、特に問題ないですよ。その場合は俺たちも敬語をやめるだけですが」


 龍輝がそう言った。

 これに紫乃はしばらく考えた上で、


「……分かりました。では、そのようにさせていただきます」


 そう言ったのだった。

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