第334話 挨拶
土御門紫乃、か。
艶のある黒髪に、前髪がぱっつんのおかっぱ頭……今風に言うとボブか……にしている高貴な雰囲気のする少女だ。
咲耶に似ているところがあるのは、やっぱり先祖を辿れば北御門とどこかで合流するからだろうか?
真気の量も中々のもので、やはり名家の術士というのはこちらでも若くしてかなり鍛え上げていることが分かる。
そんな彼女の丁寧な挨拶に、咲耶が前に出て答えた。
「これはご丁寧に。初めまして、私は北御門咲耶、と申します。そしてこちらの二人が……」
そうやって促されたので、まず龍輝が、
「時雨龍輝です」
と一言言って頭を下げ、それに続けて俺も、
「……高森武尊です」
と言った。
この順番なのは、純粋に家の序列だな。
本家である北御門、筆頭分家の時雨、そして最後に高森、と。
本当に分家の末席でしかなかった高森家も、今ではかなり序列が上がったのだが、本家と分家筆頭の前には最も格の低い家に過ぎないのだった。
家の格なんて俺にとってはさほど意味がないものなのだが、向こうからするとそうでもなさそうだ。
土御門紫乃の視界から、俺は外されたような気がする。
あからさまに邪険なものになった、とかではなく、興味が失われた、という感じかな。
……まぁいいか。
「北御門……ということは……」
紫乃が少し驚いたようにそう言ったので、咲耶が答える。
「ええ、北御門本家、当主の美智の孫になります」
「そうでしたか……そのような方を派遣していただけるとは、本気で支援をしてくださるつもりなのですね……」
この言い方なのは、お茶を濁すような人選がされていると予想していたからなのだろうな。
支援する、と言って大したことのない気術士を派遣し、支援しました、と対外的に言うために、と。
だが実際には本家の跡取り娘がやってきた。
北御門にとって、絶対に死なせるわけにはいかない存在だ。
そこからして本気度がわかろうというものだ。
加えて、分家筆頭の時雨も知られているだろうからな。
高森家はそういう意味では全くの無名である。
一応、北御門内では高く評価されつつあるのだが、美智の意向で外部にはその評価は漏らされていないからだ。
まぁ、そういうこともあって、俺は紫乃から見ると北御門本家と分家筆頭の世話をするためについてきた、序列の低い家の人間、という感じなのだろうな。
そんなことを考えていると、咲耶と紫乃の話は進む。
「もちろん、本気です。本日は私たちだけですが、後日、それなりの人員が派遣されます。その時の受け入れなどについてもお願いしたく……」
「承知しました……本当に、ありがとうございます。あぁ、いつまでもこんなところに立たせておくわけには参りませんね。どうぞ、お三方ともこちらへ……」
そう言って、紫乃は中へと招いてくれる。
俺たち三人を。
澪は?
と思ったかもしれないが、彼女は身を隠している。
というのも、北御門では問題にならないほどにその辺に普通に出没する存在になってしまっている澪だが、本来は滅多に見られない聖獣たる龍である。
ほいほい姿を表していると、危険だということだ。
まぁいずれ挨拶させたいが……ややこしいことになりそうだしな。
出来る限り、内緒にしておこうと思った。
食事とかは俺がよく食うことにして四人分運んでもらおうかな。
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