第333話 土御門本家

「ここが土御門家か」


 京都駅に辿り着くと、そこには黒塗りの車が待っていた。

 土御門家の迎えを名乗ったその人は、特に大した真気も感じられない、どう見ても一般人であり、ただの運転手でしかないらしいと分かった。

 色々話を聞くに、土御門家では一般人も普通に雇っているようだな。

 そして、土御門家の人間が特別な人間……気術、いや、こっちでは呪術か……呪術師だということを知らないようだ。

 何か不思議な力を使える恐ろしい人々、ということは認識しているようだが、それだけだ。

 俺たちについては特別なお客さま、と伝えられているらしく、かなり丁寧な扱いをしてくれた。

 ちなみに車が向かったのは、京都駅から離れた山奥であり、土御門本家はそこにあるらしい。

 明らかに鬼門の方角に向かっていることから、土御門本家自体が鬼門除けとして機能しているのかもしれないと思った。

 気術と呪術は真気を使用することは同じでも、その方式には異なるところがたくさんある。

 例えば方角については気術もそれなりに重視するが、呪術の方が尚更にそういったものに敏感だったりする。

 

 土御門本家建物は、北御門本家と似ていた。

 どちらかというと、こちらの方が規模が小さいかな。

 ただ経済的規模の小ささを示しているわけではなく、単純に土地柄の問題だろう。

 広大で平坦な土地を、そう簡単にはここに用意は出来ないというだけだ。

 ましてや、この建物が建てられたのは数百年前とわかる程度には歴史の感じられる作りをしていた。

 北御門本家はそれに比べると割と新しい建物群が多い。

 建物の歴史とかにも特に拘らないから、改装とかも普通にして行っている。

 北御門家には普通にWi-Fiが飛んでるくらいだ。

 土御門家には……とんでなさそうだな、Wi-Fi。

 いや、流石に現代でそれは不便だし、それくらいは飛んでるんじゃないかな。

 まぁどうでもいいか。


「では、皆様。私はこちらで失礼します」


 運転手の野木のぎさんがそう頭を下げて言った。

 ここまでの道のりで結構色々な話をしてくれたので、仲良くなってしまったから名残惜しかった。


「一緒に来てくれたら嬉しいんですが」


 俺がそう言うと、野木さんは、


「正門から私のようなものが本家に出入りすることはないので……。ですが、もしここに滞在されている中で、外出されたいことなどありましたら、私が車を出させていただきますので、どうぞご遠慮なく」


 そう言って去っていった。

 それから、木造りの巨大な正門に俺たちは向かう。


「……インターフォンないのか、インターフォンは」


 俺が正門を見渡しながらそう文句を言うと、


「なさそうだぜ。叩けばいいんじゃないか?」


 と龍輝が続けた。


「叩くと言いますが、拳でですか? 軽く叩いたところで聞こえるとは思えないのですけど……あ」


 咲耶がそして、何かに気づく。

 どうも真気が門の向こう側から近づいたようだ。

 扉がゴゴゴ、と開いていき、一人の人物が現れた。

 俺たちと同い年くらいの少女が、そこにはいた。


「……ようこそいらっしゃいました、北御門家の方々。お話は伺っております。そして初めまして。私は土御門家の長女、土御門紫乃でございます。どうぞお見知りおきを」

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