第330話 悪い話
「南雲の……分家か」
美智の話を聞き、少し視線を落とした俺に美智はめざとく気づき、尋ねてくる。
「ご不満ですか?」
俺はそれに苦笑しつつ、首を横に振る。
妹にはやはり隠し事は出来ないようだと思いながら。
「不満って程でもないんだけどな。分家だと、分家がやったと言って言い逃れが出来てしまうだろう。俺としては本丸を突きたいって言うのに」
それが正直な気持ちで、俺はため息をついてガッカリとした感情を表した。
美智はそんな俺の様子を見て笑い、
「お兄様らしい苛烈さですが、こればっかりはどうしようもないですね。少しずつ積み重ねて、最後に王を取るという戦いも悪くないのではありませんか?」
そう言った。
なるほど、美智らしい戦い方だ。
彼女は昔から慎重派で、最後の瞬間まで決してその狙いを相手に見せない。
勝ったと確信した時ですら、隠し通す。
全てを明らかにするのは、自分が本当に勝ったことが確定してからだ。
それが最も防ぎにくく、周到な戦い方であることを知っているために。
俺にはそう言うところは確かにないな。
どうしても、最初から王を掴みに行きたくなる。
それでも、こうやって転生してからは、むしろ忍耐強く頑張ってきたつもりだが……本来の地が、思わぬところで出てしまうものだ。
俺はかぶりを振って、
「……確かにその通りだ。俺の悪い癖だな。というか、そういうことなら、今回見つかったその契約書とかの証拠類も、当分表に出すつもりはないということになるな?」
そう言った。
あくまでも、地固めを出来る証拠が一つ出ただけ、とそう言う話でしかないからだ。
それでも何も得られなかった今までと比べると相当な成果だが、とどめをさせるかと言われるとそうではない。
俺の言葉に美智は申し訳なさそうに眉根を寄せ、言った。
「ええ、そうなってしまいますね。ですけど、これは将来のための確実な一歩です。そのことを、まず喜びましょう、お兄様」
気遣うような言葉に、俺も怒る訳にはいかないと、
「あぁ、そうだな。悪いな、気を使わせて」
そう言うしかなかった。
「いえ……あぁ、そして悪い話の方なのですけど」
美智は思い出したようにそう言った。
そういえばそうだった。
まだ話は残っているのだった。
しかし、今の話がいい話だったというのなら、悪い話はどれだけ悪いのだと言う事になる。
なんだか聞くのが恐ろしいな……。
とはいえ、聞かないわけにもいかず、俺は美智の言葉の続きを待った。
そして彼女はゆっくりと言う。
「京都にて、大妖の封印が解けかかっているそうです。呪術師協会総出で封印の再構築に取り組んでいるそうですが……時間の問題でしょうね」
「……大事じゃないか」
大妖とは、読んで字の如く、妖魔のうちでも強大とされているもののことを言う。
特に歴史上、倒すこともできないと判断されたものは、封印処置をされる。
日本にも何体かの大妖が封印されており、
近いところで言うと、重蔵のところにあったあれだが、あそこには何が封じられていたかすらわからないという話だったからな。
本当に封じられていたのかどうかもわからない。
大妖というのはその力の桁が外れているので、解放されたら街が吹き飛んでもおかしくない。
それを考えると、重蔵のところのあれは、特に何の被害も出ていないから、実は大した妖魔ではなかった可能性も考えられるが……まぁ分からないな。
そんなことを考える俺に、美智はため息をつきつつ言う。
もちろん、俺の態度に対して、ではなくて、事態の大きさを思ったが故のものだ。
「そう、大事です。正直に言って、京都は見捨てるべきという意見も出て来ているくらいです」
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