第328話 制圧

「……さて、どういうことなのか聞かせてもらってもいいかの?」


 周囲にいた邪術士を全て気絶させたあと、まだ意識が多少残っている場合にも備えて声が外に漏れないよう、結界を張ってから澪が話し始める。

 

「成り行きとしか言いようがないな。ええと……」


 それから、ここまであったことを全て澪に話すと、彼女は面白がって、


「なんじゃ、そんな楽しそうなことならわしも武尊たちと一緒に潜入すればよかったのう」


 と言い出す。


「いや……澪は途中で色々とぶっ壊しそうな気がするな」


 演技するの面倒くさい、とか言いながら。

 彼女もそれには心当たりがあったのか、


「むぅ。否定できんのが苦しいところじゃ。まぁいい。それよりこれからどうする? こいつらを連れていくのは当然として……む?」


 澪が突然上を向いた。

 というのは、急に建物が大きく揺れ出し、そして天井から何かが落ちてきたからだ。

 しかし澪はその落ちてきた鉄筋のようなものを軽く弾いて、


「武尊、これはいいのか?」


 と尋ねてきた。

 

「良くはないな。なんか崩壊システムとかいう、自爆スイッチがどこかにあったらしくて……誰かが押したんだろうな」


 言いながら、周囲で気絶してる邪術士たちに崩落してきた建材が命中しないようにそれぞれに結界を張っておく。

 基本的に死者を出すつもりはないのだ。

 別に彼らが憎いというわけでもないからな。

 俺が憎しみを感じるのは、景子と慎司だけである。

 

「じゃあどうするんじゃ? ほっとけばこの倉庫、このまま潰れそうじゃが」


 そうなっても自分は問題ないが、という感じで澪がそう言う。

 事実、この崩落の待っただ中にい続けたとしても、澪が傷つくことはないだろう。

 龍の耐久力の恐ろしいところだ。

 俺はどうかと言えば、結界を張り続けていれば問題はないな。

 流石に生身を晒したら死ぬが。

 身体強化しておけばそれでも大丈夫だろうが、やる意味がない。

 命に問題はなくても、服は確実に汚れるからな。

 強化は服にもかかるから、破れることはないが、汚れはどうしようもない。

 そんなことを考えつつ、俺は手のひらを上に向け、そこを起点に結界術を起動した。

 すると、崩落は止まる。

 澪はそれを見て、


「ほう、結界を張って建物を空間に固定したのか? しかし……お主がここを離れたら壊れてしまうのでは?」


 と冷静に言ってくる。

 しかし俺は首を横に振って答える。


「いや、問題はない。仙術を使って固定化しているからな」


「また器用なことを。しかしそれならば問題ないか」


「つっても、何ヶ月も保つ訳じゃないけどな。北御門の気術士がここを調べ切る時間くらいは稼げるだろう」


 長くて一月と言ったところか。

 それだけあれば、なんとでもなる。

 

「ではこれで制圧完了というこかの?」


「そうなるかな。一応、脱出口から逃げ出しただろう邪術士が問題になるが……俺たちを見てたわけでもないし、なんか龍が襲ってきたから逃げたくらいの認識しかないだろうしな。その辺も何も問題はない」


「そうか……まだ暴れ足りない気がするのう」


「……だからって設備をぶっ壊したりするなよ? これだけ大規模な設備丸ごと奪えるのは珍しいんだからな。しかも結構新しい技術を使ってるっぽいし」


 パクっていけば、北御門の技術部も喜ぶだろう。

 そしてしばらくした後、やっと北御門の気術士がやってきて、建物内の惨状に目を見開いていた。

 しかし仕事は迅速で、やるべきことを素早く片付けていく。

 一月ほどしか建物が保たなそうなことを俺が結界で維持してることを伝えずに、遠回しに話したが、設備の調査にそれほどの時間はかからないから問題ないと言われたのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る