第326話 到着

 大体見なくても想像はついていたものの、改めて目の前にするとなんだか笑ってしまうな、と思った。

 何をか、と言えば澪の暴れ具合である。

 花蜜かみつとジギと共に澪のいる場所へ急いだ俺たちだったのだが……。

 到着すると、大勢の邪術師たちが必死の形相で戦っていた。

 砕かれた結界を何度も何度も張り直して、なんとか澪を押さえ込もうとしているものの、澪はその度に哄笑をあげながら軽々と破壊するので、なんというか地獄絵図である。

 やろうと思えば簡単に今すぐに全員気絶させられるだろうに、そうしないあたりが酷い。

 あえて、遊んでいるように見え、その姿は聖なる獣たる龍というよりも、ほとんど邪竜だった。

 いや別に、邪術士に対しての行動だから全然問題ないんだけどな。

 客観的に見るとどう見えるか、と言うだけの話で。


「……遠くから感じてた気配だけでもヤベェとは思ってたが、こうして至近距離まで来たらなおのことヤベェな。あれ、なんとかなんのか……!?」


 花蜜が武器を手にはめてそう呟く。

 学校で咲耶と戦った時には使っていなかったが、どうも彼女固有の武装はメリケンサックらしい。

 もちろん、普通のものではなく、なんらかの効果があるのだろう術具であることは見れば分かる。


「なんとかするしかあるまい。硴水もギリギリのところで頑張ってるらしいし、な」


 ジギが少しホッとしたような表情で、結界維持の最前線で真気を注ぎながら、周囲に指示出しをしている硴水の視線を向けた。 

 すでに倒されているかもしれない、と思っていたのだろう。

 しかしそうはなっていない……その理由は簡単で、あれだな。

 俺が澪に殺すなと指示を出したからだな。

 っていうか、考えてみると、この地獄絵図は俺のせいか?

 殺すわけにはいかないから、削り切ることを考えて、遊んでいるみたいな戦い方をしているということではないだろうか。

 邪術士はまず、諦めることを知らないから、殺さないとすれば気絶させるか真気を完全に吐き出させるかしかない。

 前者は気楽にできるだろうが、いつ意識を取り戻すかわからない状況で真気を残しておくのは危険だからな。

 可能な限り空っぽにしてから気絶させる、と言うのが無力化するには一番いいやり方になる。

 それをやろうとしているのだろう。

 なんだかこんな状況を招いた原因が俺っぽいことがわかったので、申し訳なくなってきたな……。


「おい、ブソン。俺はあの龍をなんとか押し返すから、お前は硴水に逃げるように伝えてくれ」


 ジギが俺にそんなことを言う。


「え、でも……」


 自分で言わなくていいのか?

 と思ったが、ジギは言う。


「あいつは頑固だからな。俺に逃げろって言うよ。いいから頼んだぞ」


「……はい」


「私も行くぜ!」


 澪に向かって走り出していったジギに続いて、花蜜も後を追った。

 うーん、二人とも仲間思いのいい奴らだ……騙しているのが気が引けてくる。

 さて、俺はどうしたものかな。

 このまま挟撃してもいいが……いや、やめておくか。

 とりあえずジギが言った通り、硴水さんのところに行こう。

 逃げろと言われたのに早々に戻ってきてしまってなんだか合わせる顔がないような気もするが、今更な話だ。

 そう思った俺は彼の元へと急いだ。

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